22年後の未来予想図とは

印象のみで記すことをお許しいただければ、いわゆる戦後の高度成長期に、バラ色の未来を描く長期予測やいわゆる「未来学」といったものが隆盛したのに比べると、現在は数年先の政治・経済動向も不透明、将来予測がはるかに難しくなっている状況下で、そういった論文や書物も下火になっているように思われる。そうした中、フランスでは、2033年の予測を図解で表した本が新たに出版されたという。そんな先のことを見通して展望を明らかにすることなど果たして可能なのか、12月31日付のベルギー『ル・ソワール』紙は、書籍の著者の意見を聞きつつ、このある意味で画期的、ある意味で無謀な取組が目指すところと、その射程について検討している(Optimiste ou pessimiste, les cartes de 2033. Le Soir, 2010.12.31, p.14.)。
この本の著者は、国際政治学者・地政学者のヴィルジニー・レッソン氏。彼女が主宰する研究所LEPACのスタッフも動員して、ありうべき中期的未来の展望をわかりやすい形で描き出している。「2033年」というのが予測対象として一見奇異にも思われるが、これは調査研究を開始した2008年の25年後という意味。レッソン氏によれば、25年というのは「(気候に関してにせよ、エネルギーに関してにせよ)何らかの大きな政策を実現し、その効果を評価するために必要な期間」とのこと。つまり、25年、およそ一世代先の時点で政策上の何らかの成果を得るためには、今すぐ取組みを開始しなければならないということになるわけだ。
本書が示す未来像とは?まずもって言えるのは(まあ当たり前のことだが)、いわゆる「明るい未来」を展望するのはかなり難しいということ。現在既に世界的な問題になっている、環境問題、エネルギー問題、アフリカ等で見られる飢餓的な状況、民主主義をめぐる問題、都市の在り方や移民に関する問題などは、どれもが2033年にも何らかの形で課題であり続けていると見られる。いずれも、21世紀の中盤にかけて解決への道をたどり始めるとは予想しにくい難題ばかりだ。ただそれにもかかわらず、レッソン氏が貫こうとしているのは、いずれの問題についても、制御していくことは極めて困難だが、不可能ではないという立場であるように思える。
例えば、高齢化問題に関しては、それ自体が多くの国で今後発生することは避けられないとしながらも、定年の延長、社会保障負担の増額、女性や高齢者の就労率の上昇等によって切り抜けることは不可能ではないかとの見解。また、いわゆる世界的な人口増加現象(2033年の世界人口は85億人程度との予想)についても、先進国の肉食を支える牧畜業のために消費されている農作物を見直し、主食としての穀物類に農業をもっとシフトさせること、また灌漑の一層の整備、地産地消的、有機的な農業の促進などによって、決定的な飢餓状態は回避することができる(し、そうしなければならない)と強く論じている。
レッソン氏の基本的スタンス、楽観的か悲観的かと問われれば、私見ではまあ楽観的なのではないかと見立てることができるのではないか。なぜなら、地球規模のどの問題についても、将来にわたって決定的な危機は回避することはできるという考え方に立っているから。ただそれにしても、今から本腰を入れて全世界が危機の解消のために取り組むかぎりにおいてということではなるので、まずは本書を手にとって、煽るばかりではないリアルな将来に対する危機意識を改めて持ち直す必要はやはりあるのかもしれない。

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諸事多忙でブログ更新が停滞中。そろそろ元のペースに戻したいのだが…。