有機ワイン、いよいよ市場に定着か

世の中「オーガニック」が流行っているのは確かなのだが、ことワインに関しては、他の農産物や食品と比べて、オーガニックということで評価が与えられる傾向は弱かったように思われる。むしろ生産面、質の面から、有機ワインには限界が多いように受け止められてきたのではないか。しかし、いよいよ潮目が変わりつつあるのか、2月4日付『ル・モンド』紙は、フランスでオーガニックワインが定着期に入ったという観測を示している(Du vin de pays aux grands crus, la viticulture bio séduit de plus en plus de producteurs et de consomateurs. Le Monde, 2011.2.4, p.17.)。さてどんな動きが起きているのか。
有機農業の発展を推進するフランスの公的機関「アジャンス・ビオ」の調べでは、オーガニックワインの生産者は2010年に2万人を超えた。有機栽培を行うぶどう畑は2009年末で約4万ヘクタール、全体の5%に及び、その面積は2012年までに倍増すると予測されている。また有機ワインは消費面でも実績を伸ばしており、2005年以後の4年間で販売額は58%増加した。
有機栽培指向は日常使いのテーブルワインからAOCワインまで幅広く及んでいるが、最近の特記すべき動きは、ボルドーの銘品ワインの領域で、オーガニックへの流れが一部とはいえ生じていること。ソーテルヌで格付け白ワインを産するシャトー・ギローのグザヴィエ・プランティ氏は、有機農産物の品質を保証する「ABラベル」を獲得し、2010年からワインに表示している。また、ポイヤック5級の格付けワインを産し、ロバート・パーカーのガイドで最高級の評点を得ているシャトー・ポンテ・カネも、生産者であるジャン−ミシェル・コム氏の「ワイン自身をして語らしめる」との方針で表示こそしていないが、ABラベル付与資格を獲得したシャトーの1つとなった。
特にオーガニック指向が強いワインとして記事で挙げられているのが、ロワール河口付近で作られるミュスカデ。この地でそれぞれ約20ヘクタールのぶどう畑を持つジャック・カロジェ氏とミシェル・ベドゥエ氏は、新たに有機栽培を始めるとともに、これまで協同組合や大規模卸売・輸出業者(ネゴシアン)に一括販売していたのを改め、自前の販売に踏み切ることにした。これまで何もかも他人からの指示通りに栽培してきたのをやめて、いわばワインづくりを自分の手に取り戻したのだとも言える。もっとも、協同組合や大規模業者が直接オーガニックワイン醸造に着手するケースも現れていて、例えば飲料メーカーのカステル社は2年前から、「有機農法に基づくワイン」または「持続可能なぶどう栽培法に基づくワイン」と表示した商品の販売を開始した。同社のフランク・クルーゼ氏は、「環境を尊重することに対する消費者の関心は増しつつありますから」と、新たな商品開発の狙いを説明している。
今のところ有機栽培の弱点は、年ごとに収獲高が大きく異なり、その点で通常の生産方法に比べて生産性の面で劣ってしまう(あるいは安定しない)こと。ドメーヌ・ドゥ・ラ・ペピエールでミュスカデをつくるマルク・オリヴィエ氏は、2007年に露菌病が流行し、眠れぬ夜を幾つも数えたことを今も思い出すという。現時点でぶどう栽培家がオーガニック路線に転じるのは、収獲が減ること、また各年で大きな生産高の変動が生じることの覚悟がなければ難しい。それでも、人手をかけ、自然に任せる部分は任せつつ、より「環境にやさしい」ワインを作っていくという努力が、少しずつではあるが広まってきていると言えるようだ。