警察官ストライキと市民の反応

他のヨーロッパ諸国に比べて、スイスはストライキが少ない国だと言われる。まして公務員が争議を構えるなどとは余程のことのはずだが、先月ジュネーブは、警察官のストライキという非常に珍しい事態に見舞われた。2月18日付『ル・マタン』紙の記事からまずは事の経過を見てみよう(La Grève des amendes. Le Matin, 2011.2.18, p.8.)。
2月16日の夜、ジュネーブ州の州警察官労働組合(UPCP)は特別総会を開催し、その議決に基づいて翌日11時からストライキに突入した。ストの内容は非常に限定されていて、制服を着用しないこと(ポリスと書かれた上着と腕章で識別は可能)、髭を剃らず、人によってはピアスをしたまま仕事をすること、罰金を一切課さないことの3点。髭とかピアスとかが争議の内容になるのがいかにも不思議だが、要するに公共の安寧維持という警察官の任務は一応こなしながら、何らかの形で雇用者(州政府)に対する抗議を公に示そうという目的なのだろう。UPCPによれば、所管である州警察・環境省、具体的にはイザベル・ロシャ警察・環境担当州参事やモニカ・ボンファンティ警察局長が誠実な対応をしない場合、さらに17種の争議行動を起こすとのことだが、記事の限りではその内容は不明。
組合の主張は、当局が警察官業務の困難さを認めた上で、業務内容に関する協議に応じよというもの。とりわけ、年初に新しい連邦刑事訴訟法が施行されて以来、警察官がこれまでの仕事に加えて役所での文書事務等にも従事しなければならなくなり、結果的に負担が激増したと指摘している。UPCPのクリスチャン・アニエッテイ委員長は、シャン・ドロン刑務所の収容人数が定員比650人超の状態からこの2か月間で399人超まで減少したのは、決して犯罪者が減ったわけではなく、こうした業務負荷の増大のためだとも述べている(要は「お役所仕事」が増えて本来の警察官業務に手が回らなくなり、結果として犯人の捕捉が行き届かなかったと言いたいらしい)。
まあ主張は主張として、警察官が限定的とはいえストライキに入ったら、市民の安全はどうなってしまうのだろう。アニエッティ委員長は、「我々の目的は、公共の安寧を人質に取ることではありません。市民にとって必要な業務は続けますし、そのことは最優先です」と言明する。後は罰金徴収停止の影響をどう見るかだが、これで例えば駐車違反が野放しになるかというとそうでもないらしい。州警察が争議中でも、ジュネーブ市の警察の目は変わることなく光っているし、駐車場財団に委託しての罰金徴収という方法も存在する。要はストだからといって不法な輩のやりたい放題にはならないということか。
『ル・マタン』紙は、この前代未聞的ストに対する市民の反応について、当日の記事にいくつかの声を載せるとともに、翌2月19日にも特集で紹介している(Pensez-vous qu’un policier a le droit de manifester? Le Matin, 2011.2.19, p.21.)。「警察官は労働者として当然の権利を行使している」といった意見もかなり見られるが、さもありなんというか、「警察官は医療費も市内交通機関も電話も無料。定年は58歳。恵まれているのにさらに多くを望むのか」といったいわゆる公務員批判も少なくないようだ。やはりスイス、大規模なストライキが日常茶飯事のフランスなどとは違った反応が出ていることが窺える。