ラジオで人気集める歴史番組

日本に比べてフランスではラジオが一般によく聞かれているということは以前にも書いた(2009年8月1日)。公共放送「ラジオ・フランス」の各チャンネルと多くの民間放送局が聴取率を競い合っているが、人気のあるジャンルの一つとして定評のあるのが歴史。2月28日付『ル・パリジャン』紙は、民放ラジオ局で始まった新プログラムを中心として、歴史番組の人気ぶりを伝えている(L’histoire branche les radios. Le Parisien, 2011.2.28, p.33.)。
有力ラジオ局の1つであるユーロップ1が2月28日月曜日から始める新番組は、歴史分野を得意とするジャーナリスト、フランク・フェラン司会の「歴史の真ん中で」。同局の他のウィークデイプログラム改編と同時にスタートし、月曜から金曜までの毎日、13時30分から14時30分まで放送される。番組の前半ではフェラン氏が歴史上の人物や出来事に関するトークを展開、後半はゲストを迎えたり、リスナーからの質問に答えたりするというが、話題を歴史に限定して1時間の帯番組を放送するなど、ちょっと日本では考えられない。
フェラン氏は43歳。ラジオパーソナリティとして15年の経歴を持ち、同じユーロップ1で歴史関連の番組をいくつも手掛けてきたが、直近では毎週土曜日の15分番組担当に甘んじていたので、彼にとって今回の改編は大きな飛躍となる。その背景には、同局の社長がアレクサンドル・ボンパール氏から歴史に造詣の深いドゥニ・オリヴェンヌ氏に交代したことがある由。午後1時半はちょうどランチが終わり、多くの人が仕事に戻る時間に当たるので、「(自分の番組のせいで)午後の勤務に遅刻する人が多くなるといいなと思っています」と冗談交じりに語る。局に蓄積された膨大な資料と彼自身の該博な知識をフルに番組に注ぎこみ、「ウィキペディアには載っていない」事柄を豊富に取り上げていくとのこと。
ちょうど同じ時間帯には、これまでも公共ラジオ局フランス・アンテールで、パトリス・ゲリネ氏がパーソナリティを務める「2000年の歴史」が放送され(ウィークデイ13時30分からの30分番組)、国内で一番ポッドキャスト登録された番組にランクされるなど10年以上にわたって地歩を築いていたが、ゲリネ氏が電気通信の規制機関である視聴覚高等評議会(CSA)委員に就任するため担当を降り、新たにジャン・ルブルン氏による「歴史の歩み」が、ユーロップ1の「歴史の真ん中で」と同じ日にスタート。ライバル意識が否応なく増すような状態になっている。さらに週末は、別の有力局RTLがお昼時に「フランス史−グランド・クイズ」という番組を昨年9月から始め、その時間帯で前年よりも聴取者を14%も増やす好成績を収めている。これだけ例を示せば、いかに歴史ものがラジオ番組として成功しているか、リスナーがこうした番組にどれだけの期待をよせているか明らかだろう。
他方テレビについては、1969年から20年近く公共放送で月1回の歴史番組を続け、驚異的人気を誇ったとされるアラン・ドゥコー氏の例があるものの、近年では目立った歴史関係のプログラムはない(日本ではむしろテレビに「その時歴史が動いた」などの人気番組があるだけにやはり意外)。フランス2に「歴史の秘密」というプログラムがあるものの、最近は夏休み期限定の放送へと格下げされている。もっともフランス3では、今年の夏休み明けに新番組の投入を準備しているらしいので、場合によってはテレビにも歴史人気が波及することになるかもしれない。