非正規雇用ばかりが増える時代の困難

ごく最近のフランスの景気は、個人消費の多少の回復、また生産活動の活性化などによって、多少とはいえど持ち直している由。さてそこで、こうした動向に伴う雇用の状況はどうなっているのか。3月11日付の経済紙『ラ・トリビューン』では、パリ商工会議所(CCIP)会長のピエール−アントワーヌ・ゲイー氏へのインタビューを軸として、首都を中心とするフランスの雇用事情を検討している(≪Nous constatons une veritable déqualification des nouvelles embauches≫. La Tribune, 2011.3.11, p.4.)。
まず、景気は確かに回復したのかという記者からの問いに、ゲイー氏は「慎重に判断する必要があります」と答える。経済活動は確かに活性化しているが、まだ一進一退を続けている部分もあり、予断を許さないとのこと。そして、比較的好調な部門として、新興国での好況、発展の波及効果がある観光関係業種、付加価値の高い一部産業(例えば服飾関係などか)、また金融関係業種などを挙げる。そして、景気のよい産業分野は一般に労働集約性が低いため、雇用はあまり期待できない、強いて言えばサービス業やホテル、レストラン関係で多少の従業員増があり得る情勢だが、それも多くは期限付雇用にとどまっているという見方をしている。
こうした見解は、統計によっても実際に裏打ちされている。国立統計経済研究所(INSEE)の調べでは、2010年の第四四半期にフランス国内の雇用者数は0.2%増大した。昨年1年間を通じてみると0.8%、約12万5千人の雇用が増えている。ただ、独立行政組織である「雇用中央機関」によれば、新規に作り出された雇用口の何と98%が期限付き。昨年1年間で期限付雇用者(要は日本でいう「非正規雇用者」に近いだろう)は約20%増大しており、またその全体の3分の1を25歳以下の若年層が占めるという形で、若者の就職難の部分的な(暫定的に過ぎないが)解消には貢献している。ただ、雇用環境が多少改善されたといっても、昨年の雇用増は2008年から2009年にかけての経済危機で失われた分の約3分の1を回復したに過ぎないという点は、きちんと留意しておくべきだろう。
CCIPもはっきり認めるように、期限付雇用は仕事内容上必要とされるスキルが低いものが多い。このままでは労働力全般の熟練度が低下するおそれが大きいとして、新たに提起されているのがインターン制度のより広範な導入。ゲイー会長は、若者の2人に1人が15歳、16歳ぐらいから実際の工場や事務所に入って仕事の初歩を学ぶことで、自分の適性を知ることに役立っていると言われるドイツに倣って、フランスでも同様な仕組みを作りたいと主張する。そして、世界的にもフランスの評価が高い料理の世界などを端緒にすれば、こうした制度も受け入れられやすくなるのではないかと、若干の提案も行っている。
日本に比べればフランスなどでもインターンという考え方がある程度普及しているのではないかと思っていたが、ドイツに比べればまだまだということか。まあ正規雇用を獲得する前に、若者が仕事することに馴染み、雇用する側も社会貢献的要素を含めてインターンシップの円滑運営に取り組んでいくというのは悪いことではないだろう。しかし、日本でもそうなのだが、グローバリゼーションの潮流の中で雇用の非正規化がいずれにしても不可避(バウマン『個人化社会』)と考えれば、こうした努力もいかほどの効果があるか、疑問の余地なしとはしない。