「離婚ビジネス」、いよいよ盛んに

日本でも昨今は、離婚の報を聞いても特に驚きもしないのが風潮。ましてフランスであれば日常茶飯事といっても過言ではないはず。それほど数が多くなると、離婚した人や離婚希望者を対象とした商売が出現するのも当然なのでは、というわけで、一般大衆向け月刊誌『サ・マンテレス』3月号では、こうした「離婚ビジネス」の最新動向、それを利用するための費用事情などについて伝えている(Le nouveau business du divorce, Ça m’intéresse, 2011.3, pp.30-31.)。
2009年の1年間を通じてフランスで離婚したカップルは12万7,600組。一方結婚したのは24万5,000組というから、単純計算で言えば2組に1組以上が離婚していることになる。離婚する人の平均年齢は男性で43歳、女性で40歳。寿命を考えればまだまだ先は長く、破局というよりも「新たな出発」の機会としてポジティブに事態を捉える、または後の人生を明るく暮したいと強く願う人々が増えていると言われる。こうした背景もあって、離婚に至る過程をいかに円滑に進め、人生をうまく再スタートさせるかという観点から、いろいろなビジネスが現れてくるというわけ。
こうした商売は多くの場合アメリカで創始され、やがてフランスにも伝播してくるというのが常のようだ。「離婚式」のセッティングというビジネスを、フランスのベンチャー企業が始めたのは2006年だったが、そのときはまだ当地で商売が成り立つには早過ぎたらしく、10名ほどの女性のスターティング・オーバーを演出しただけで撤退。しかし、1年ほど前にコートダジュールで同様の事業を始めたダニー・シャラン氏は、それなりの手応えをつかんでいるように見え、実際に問い合わせや利用者も増加傾向にある。具体的には、家族や大勢の友人を招待した上、離婚する女性(または男性)がニセ神父の前で、同じ過ちを繰り返さない旨を宣誓するという式典を、厳かに執り行うというもの。費用は離婚者というより出席者が支払うのが原則になっており、もっともシンプルな式の場合450ユーロ、式場から料理まで豪華なアレンジを施す場合には総額1,500ユーロほどかかるのだそうだ。
言うまでもなく、カップルが離婚という結論に至るまでには、多くの場合長い時間、さらにことによると弁護士への支出といった費用が相当かかる。双方合意の離婚における所要期間は平均で4か月から6か月、養育権や財産分与の点で合意が難しい場合には当然長期化することに。この過程で弁護士を立てた場合、平均費用はパリ以外のフランス各地で最低でも2千ユーロ、パリではそれより2割から3割高くなる。財産分与が問題になる場合は公証人が関わってくるし、さらに離婚への道筋が込み入ってきて、自分に有利な証拠をつかむために探偵を雇う(パリの場合で1時間当たり80ユーロ程度)などとなると、費用はいくらでも釣り上がる。離婚後の新居や車の手配などは言うまでもないし、子どもを手放した側の多くは養育費(月額平均325ユーロ)を支払っていく必要性に直面する。
このように離婚とその後の過程が複雑になりがちであることから、これらを総合的に支援するというサービス業が現れてくる。ブリジット・ゴーメ氏は年に1回、パリのシャンペレ門そばの会場で、離婚を考えている人向けのフェア(?!)を開催しているが、その目的は、弁護士、公証人などから不動産業者、エステ企業まで、離婚する人が援助を必要とするであろうあらゆる職種の人々を一堂に会させ、いわば「ワンストップサービス」を実現することにあるようだ。
こうしたフェアには精神科医も参加しており、離婚によって心の傷を負った人への対応に当たっている。クリニックで本格的に治療を受けることになると、1時間当たり30ユーロから60ユーロが必要。ただ最近では、離婚者の心をただ癒すだけでなく、彼らの目をもっとアクティブな方向に転じさせ、その能力をいっそう開花させようとする心理アドバイザーというのが流行っていて、需要も急増していると言われる。そしてさらに先端を行くのが、「ウェディング・プランナー」ならぬ「離婚プランナー」。弁護士との相談、銀行との交渉、心理的なケアなど、離婚前後の過程全てに関わり支援するという包括的な仕事を依頼者と共に、場合によっては依頼者に代わってこなす。もちろんその分値段も高くて、一切合財込みで6か月5,300ユーロでの請負になるとのこと。
一方、ネットを通じてのビジネスも同様に盛んになっている。女性向けのあるサイトは、30ユーロ払い込むことで、離婚後にどれだけの養育料をもらえるようになるか試算するとふれこむ。もっとすごいのは、900ユーロを事前に振り込めば、あらゆる事務を代行し(究極の「ワンストップサービス」とでも言うべきか)、3か月で離婚を実現しますと謳うネット企業。さすがにこうした業者については弁護士会の理事会でも議論がされ、「クライアントとの関係が完全に切れている状態でなされるこのようなサービスは望ましくない」との理由で、関わりを持たないよう所属の弁護士に求めている。また、900ユーロというのはあくまで当初期の払い込み額であり、案件が複雑化した場合は所要期間が半年以上に延びたり、また最終支払額が1,500ユーロに達するケースもあるようなので、注意が必要と言えよう。
もちろんこれらの各種ビジネスを「商業主義」として冷ややかに見る人々もいる。フランス離婚者協会は、会員たちがそれぞれの体験について情報交換するために設立された組織。月額8ユーロの会費を払えば、会員の体験に基づき同協会が蓄積しているいろいろな情報にアクセスできる。離婚が人生の一大転機であり、またしばしば骨の折れる経過をたどることになりがちなため、お金をかけてそうした日々を乗り切る、あるいは諸々の事務を処理してもらうという考え方はあり得るものだとは思うが、ビジネスライクな思惑を見せつけられると、むしろ離婚者協会のような行き方にほっとするものを感じたりもするのだ。