無料日刊紙、互いに激しく競合

欧米諸国で勢いを増していると言われる日刊のフリーペーパー。広告料のみを基本的な収入源とし、大都市の駅構内などで無料配布するというビジネスモデルは、90年代後半頃から定着し始めたとされ、2000年以降、日本新聞協会や朝日新聞総合研究センターの機関誌に、その動向について検討するレポートが掲載されたりしている。宅配中心と店頭販売中心という決定的な違いがあるものの、諸外国と比較して圧倒的な新聞販売部数を誇る日本の新聞社(あるいは新聞業界全体)としては、外国で無料新聞が出現したという事実を安穏と眺めているわけにいかなかったのだろう。さて、その後また数年が経過。3月11日付の『ル・モンド』紙(これもフリーペーパーとライバル関係にある既存紙の1つだ)では、フランス国内で複数の無料紙がしのぎを削っている状況について、改めてその最新の動きを報告している(Journaux gratuits: la course à la diffusion s’intensifie entre ≪Direct Matin≫, ≪20 minutes≫ et ≪Metro≫. Le Monde, 2011.3.11, p.16.)。
出版物の発行部数を調査する中立機関OJD協会(「日本ABC協会」のフランス版といったところ)によれば、フランスの代表的日刊無料紙3紙は、ほぼ互角の部数を刊行している。1位が『ヴァン・ミニュート』紙(地方新聞ウエスト・フランス社とノルウェーのメディア企業スキブステット社が折半出資。以下VM紙)の約77万部、次に『ディレクト・マタン』紙(仏コングロマリットであるボローレ・グループの傘下。以下DM紙)の約74万部、そして『メトロ』紙(メトロ・アンテルナショナル社が3分の2、仏民間テレビ局TF1が3分の1の出資)の約67万部。同じOJD調べでの『ル・フィガロ』紙の販売部数は約33万部、当の『ル・モンド』紙が32万部といった数値と比べると、やはり圧倒的な数字と言える。なお、一昨年まではDM紙が発行部数トップだったが、2010年の初めに起こった輪転機工のストライキにより発行が一時停止され、そのあおりで現在は2位に後退しているとのこと。
記事によれば、現在特に熾烈な争いを展開しているのはDM紙とVM紙。両者とも100万部の大台を目指していると言われるが、その戦略は好対照を成している。前者は、現在既に無料紙を発行している15の大都市域での発行をさらに強化するという考え方に立ち、パリでは『ル・モンド』、他の都市ではそれぞれの地元紙と提携しつつ営業を進めている。印刷と配送にかかる費用は地元紙が負担し、広告収入はDM紙側と分け合うということで、双方が利益を得るような手法を展開中(その意味では、通常の新聞と無料紙は単純に商売敵ではないということになる)。一方後者は、これまでの大都市圏に加え、人口5万人や10万人の都市域でも発行することで、配布部数を伸ばし、また同紙を真のナショナルブランドとして定着させることを狙っていると言われる。しかしこのやり方には、小都市での発行に多額の費用がかかる割には得るものが少ないのでは、という懸念の声もあるようだ。
2紙はインターネット戦略をめぐっても対照的。VM紙がネット上の展開に非常に積極的であり、ビジネスの基盤の一部をネットに移行するぐらいの勢いがあるのに比べ、DM紙の方はネット上のプレゼンスがかなり弱い。ただ同紙も、今年後半には新たなサイトを立ち上げる予定というから、これまでの出遅れも少しは見直されるのかもしれない。
2010年、VM紙は売上高5,240万ユーロとなり、280万ユーロの純利益を上げた。一方DM紙は2,500万ユーロの売上高だったが、1000万ユーロの赤字という結果に。親会社の立場にあるボローレ・メディア社のジャン−クリストフ・ティエリ社長は、「収益が上がっていないということは、事業を続けないということの理由にはなりません」と現状を説明するが、いずれにしても、既存紙を戦々恐々とさせている無料新聞の世界も、必ずしも盤石のビジネスモデルを築いているとは言えないのは確かなようだ。