バーゼル動物園、霊長類館の改築進む

旭山動物園の成功以来、観光スポットとして、また様々な動物との出会いの場として再び注目を浴びるようになった感がある動物園。諸外国でも、いろいろ創意を発揮しつつ動物園をさらに活性化するための努力が続けられている。そんな取組みの一つとでもいうのか、4月2-3日付のスイス『ヴァンキャトルール』紙は、バーゼル動物園における霊長類館の改築をめぐる動きに関してレポートを掲載している(En juin, fin des vacances forcées pour les grands singes de Bâle. 24 Heures, 2011.4.2-3, p.28.)。
1874年開園という、スイスで最も古い歴史をもつバーゼル動物園は、スイス国鉄バーゼル駅から徒歩10分という利便性の高い場所にあり、市民からも広く親しまれる存在。この動物園の霊長類飼育舎では、ゴリラ、オランウータン、チンバンジーやテナガザルなどが多数飼われている。しばらく前に、この建物を動物たちにとってより快適なものとするため、改築することが決定されたが、これに伴い、既存舎の取り壊しや新築に際して発生する騒音の動物に対する影響を回避するため、一時的に動物園から他の場所に移すという措置が必要になった。
約1年前、オランウータンはドイツのルール地域にあるゲルゼンキルヒェン動物園内に、ゴリラやチンバンジーバーゼルの南東6キロ、医薬品のノバルティス社が提供した敷地に移転することに。動物たちに吹き矢で注射を打って眠らせ、目が覚めた時には既に移転先にいるという手法が使われた。動物園長であるオリヴィエ・パガン氏や飼育スタッフが一番心配したのが、新しい環境に居心地悪さを感じないかということ。それまで動物園の入場者に見られていることに慣れていたのに、急に誰もいなくなることで違和感があるのではと思われたが、ゴリラもチンパンジーも、新居を何日かかけてじっくり点検し、その後急速に環境に慣れていったという。スタッフの不安は幸い杞憂に終わったというわけだ。
そして月日が経ち、6月末に霊長類たちはバーゼル動物園に戻ってくる。この時点ではまだ新しい飼育舎は第1期リニューアルを終えた段階。それでもこれまでと違って舎内には本物の木が置かれ(生やされ?)、床にも樹皮やおがくずなどが敷き詰められて、パガン園長によれば、「多少なりとも自然に近い状態」にされるという。そして来年の夏には、舎内に家が作られて完全リニューアルオープンとなり、動物たちはその家の中と戸外を自由に行き来できるようになる。
霊長類館改築には3千万スイスフラン(約27億円)もの投資が必要だったが、そのうち2,500万スイスフランは動物園を愛する市民による寄付で賄われたという。かなりの投資と歳月をかけ、工夫を施しつつ改築された飼育舎で、オランウータンなどが今まで以上にのびのび、いきいきした表情を見せてくれればよいなと思う。