「午後は全部体育」、中高で拡大展開中

フランスの学校(初等・中等教育)は一般的に言って、休日こそ多いものの1日当たりの授業時間は長いと言われる。また一つの特徴として挙げられるのが、特に中等教育において体育のウェイトが比較的小さいこと。コレージュ(中学校)で週3時間、リセ(高校)で週2時間というのが基本のようで、日本の中高に比べてせいぜい同規模、いやむしろかなり少ない感じ。知育・徳育・体育のバランスでみると、知育に対する体育の割合は明らかに低いような気がする。そんな中、午後の時間を全面的に体育に充てるという画期的な実験が昨年あたりから一部の学校で始まったことについては、日本でも紹介されたところ(『読売新聞』2010年7月8日)。その後この取組みがどのように推移しているのか、5月26日付『ヴァン・ミニュート』紙は、仏政府の反応などを中心にして最近の動きを報じる(≪L’expérimentation sera étendue à la rentrée≫. 20 Minutes, 2011.5.26, p.6.)。
『読売新聞』の記事は、パリの東に位置するモー市のあるリセで、教室での授業を昼休みまでに終わらせ、午後は全て体育にするという時間割が、昨年1月から一部の学級で試験的に始まったことを伝えていた。実はその後、「午前は授業、午後は体育」というこの実験プログラムは政府が幅広く推奨するところとなり、現時点では全国124のコレージュやリセで、約7,000人の生徒たちがこのカリキュラムによって学んでいる。午後を全て体育に使うことによって、1週当たりの体育の授業時間は普通の時間割より5時間ほど増え、計7時間程度になるという。
リュック・シャテル国民教育大臣もこの試みを高く評価。『ヴァン・ミニュート』紙の取材に対し、9月からの新年度には実験参加校及び生徒数をこれまでの2倍に拡大したいとするとともに、カリキュラムの導入は校長の判断によるが、特に優先教育地区(ZEP、低所得層が多く居住し、教育上も特別の配慮を必要とする地区)にある学校で積極的に実施してもらいたいとの意向を示している。
政府は既に、この実験に参加した学校長に対してアンケート調査を行った。それによると、新しい時間割によって生徒たちのモチベーションが上がったと考える校長が73%、生徒同士の人間関係が良くなったと評価しているのが67%に上るとのこと。また、60%の学校で出席率がアップしており、学業成績の向上が見られたと回答した校長も42%いる。どうやらいいことづくめで、本当?と思いたくもなるけれど、実験が一定程度の成果を上げていることまでは認めてもよさそうだ。
新カリキュラムのポイントは、一つの学校の中でもあくまで一部のクラスに導入するものだということ。シャテル教育相も、約1年前に大規模なプログラムを開始した時は、急に実施が決まったため多少の混乱が生じ、体育が好きでない(普通の時間割の方がいいと思っている)生徒が実験クラスに配置される不手際があったと認めている。そして今年はぜひ、今の時点から新年度に向け生徒自身や保護者とよく話し合って、クラス分けを進めてほしいと指摘している。
同じ学校の中でこれほどにカリキュラムが異なってくると、いわゆる学力格差問題がますます深刻になってくるのではと心配にもなるけれど、それよりもまず、一人ひとりの生徒のモチベーションを少しでも高めることが先決なのだろう。シャテル教育相は、新型時間割を全面化するつもりはないと明言しているし、教育の歴史と伝統を考えるとやはりそれはないだろうが、数年後に少なくとも一つの選択肢として、実験の枠を超えて導入される可能性は十分あり得るのかもしれない。