映画電子化計画は順調に進むのか

各種の資料やメディア媒体をデジタル化して保存しようという動きは世界中で引きも切らない。映画もそうしたメディアの一つで、特にフィルムが保存状態によって劣化しがちであることから、電子化のニーズがかなり認識されている分野と言えるのではないか。6月1日付の『ル・モンド』紙は、行政法人である国立映画・映像センター(CNC)を主要な担い手とする映画デジタル化の新たな取組みの方向性について報道している(La numérisation des films, inventaire et grand chantier. Le Monde, 2011.6.1, p.22.)。
カンヌ映画祭の最中である5月15日に、フレデリックミッテラン文化大臣(フランソワ・ミッテラン元大統領の甥)や大手映画配給会社など関係者の間で合意されたデジタル化計画。そのスキームは基本的に2本立て。商業的に採算の合う映画については、政府系金融機関である預金供託公庫(CDC)の融資により実施することとし、一方で文化財的な価値はあるものの収支面で引き合わない諸作品に関しては、国がCNCを通じて資金援助を行い、事業を展開することになっている。なお、後者の施策は実質的に民間に対する補助金とみなされるため、その実施には競争政策的な観点からEU当局の承認が必要になる。
融資を利用したデジタル化には、7億5千万ユーロの資金が充当され、経費の70%を限度として資金が貸し出される。残りはゴーモン、パテといった、各作品に対する諸権利を有する配給会社による支出となる。こちらのスキームでは、合計で1,000本程度の映画がデジタル化される見通し。一方、CNCを中心主体とするデジタル化では、費用の90%までをCNCが負担する。後者のスキームも合わせると、最終的に1万本程度の映画が対象となる見込みとなっている。
これらの事業を実施する前提として、CNCではリュミエール兄弟以降現在までの全ての保有映画作品の目録を作成し、さらにそれぞれの映画のフィルム状態や著作権等権利状況を調査する。エリック・ガランドー所長によれば、こうした作業には1年、もしくは3年かかるとのことだが、『ル・モンド』記者の見立てでは、収蔵されているフィルムの40%はこれまで開封した実績がないという事情もあり、作業終了までにはもっと時間がかかるかもしれない由。
今回実施するデジタル化では、規格を解像度2K(2,048×1,080ピクセル)とすることが決まっており、かなり高精度の成果物が期待できる。実際に電子化を担うのは、これまでも類似の業務に携わってきているエクレール現像所など各現像会社。エクレール社のティエリ・フォルサン会長は、「こうした事業の拡大は、映画館側の電子化の進展によって35mmフィルムの現像が減少している分を、ある程度カバーしてくれるかもしれません」と、国が強力にバックアップするこの事業に期待を寄せる。同社では既に4年前から、配給企業であるゴーモン社と組んで一部の作品の電子化を開始し、現在、その他の配給会社からのものも合わせて年間100本程度のデジタル化を実施している。さらに2012年からは、年間300ないし400本の電子化を担えるよう規模を拡大する予定もある。
それにしても、1万本規模のデジタル化を実現するには、他の現像会社のキャパシティを含めても相当期間を要しそうなのは事実。また費用面でも、1本当たり2万ユーロから5万ユーロと、巨額の経費がかかる見通しで、融資と支援のスキームをもってしても充分な資金を調達できるかは不透明だ。デジタル化計画の関係者側からは、これだけ大規模に事業展開すれば1本当たりのコストも安くなるのではとの期待もあるようだが、結局のところ、計画という形で道筋はつけたとは言えるものの、よほどの状況変化がない限り、活動終期の予定は当分見通せないということになりそうである。