フェデラー、全仏決勝戦を終えて

月日が過ぎるのは早く(というか、当方がアクチュアリテを消化してブログにするのが遅いだけ)、テニスの世界はもはやウィンブルドンの喧噪一色に包まれている。しかしここはフランス関連ブログなので、少し前の全仏オープンから話題を拾ってみたい。どんな切り口があるかなと思案したが、男子シングルスの決勝でラファエル・ナダルに敗れたスイス・バーゼル出身、ロジャー・フェデラーの戦いぶりと大会後の心境について、6月6日付『トリビューン・ドゥ・ジュネーブ』が地元紙として記事をまとめている。世界大会に関する報道は数々あれど敗者に関するものは意外に少ないようなので、ここで取り上げておこうと思う(Federer: ≪Je regrette toutes les occasions que j’ai gâchées≫. Tribune de Geneve, 2011.6.6, p.18.)。
戦いを終えたフェデラーは、コート・フィリップ・シャトリエに最後の一瞥を与え、スペインの記者やテレビカメラにもみくちゃにされている勝者ナダルの傍らを通り過ぎて、スタンドへと去った。しかし彼もそのまま静かにローラン・ギャロスを後にできたわけではない。屋内で待っていた記者たちに取り囲まれ、問われるままに決勝戦の分析や感想を語った。その語り口にはいつもの雄弁さや鋭さはなく、彼が明らかにこの結果を残念がっている様子が見て取れたという。
第1セット、フェデラーナダルに対し5-2と先行したにもかかわらず、決めのショットがわずか数センチだけラインから外れてしまったのをきっかけに調子を崩し、7-5と逆転される。続く第2セットも相手に奪われたが、第3セットをようやくもぎ取ることに成功。「彼を動かし、疲れさせ、いらつかせようとしていました」フェデラーはその時の心境を語る。しかし、ナダル疲労に追い込めたと感じたのもつかの間で、結局第4セットでは自らの勢いを維持できず、敗れ去ることとなった。
稀に見る好勝負だったとの評価が高い準決勝、ノヴァク・ジョコヴィッチとの試合と比べてどうだったかと尋ねられて、「相手のプレースタイルが違い過ぎるので、量りにかけることはできません」と答えるフェデラー。それでも準決勝での勝利が印象深かったのか、この大会をトータルで見れば総じて良い結果が残せたと感じているらしい。「初日にはどんな結果が待ち受けているのか予想もつきませんでした。ローマ・マスターズの後でものすごく疲れていた(註:3回戦敗退)こともあります」と本音を打ち明けている。
フランステニス協会の元技術部長、パトリス・ドミンゲス氏は、「ロジャーはクレーコートでのテニスのプレー法を新たに創造したとも言えるでしょう。年齢の限界もありますから、こうした試合はそう何度もできないとは思いますが」と述べて、この大会での彼の活躍を絶賛している。世界的な人気選手で、もちろんスイスにとっては国のヒーローといった存在でもあるフェデラー。この8月に30歳を迎えるが、双子の子どもに自分のプレーを生で見てもらうため、35歳までは現役を続けたいと既に宣言している。これからもきっと4大大会やオリンピックで、テニスファンをうならせ、驚かせる好プレーを披露してくれるのではないだろうか。