桃の生育と収穫が絶好調

ベルギーやフランスなど、西ヨーロッパの今春の好天ぶりについては先日当ブログ(6月15日付)に書いたが、フランスではもはや「上天気」などという範疇は通り越していて、むしろ土地の乾燥や干ばつ、それに基づく農業への被害が憂慮される事態になっている。ただ、乾燥した天気の影響も農産物ごとにさまざま。6月14日付『ル・フィガロ』紙記事によれば、桃にとってはかえってこの気候が夏の収穫に向けての好材料になっているのだという(Bon début de saison pour les pêches et nectarines. Le Figaro, 2011.6.14, p.22.)。
「2か月間稀にみる晴天が続いたおかげで、桃は大きく成長し、品質が良くなり、糖分もたっぷり含むようになりました」と説明するのは、桃・ネクタリン生産者団体連合会(AOP)のブルーノ・ダルノー会長(註:ネクタリンは桃の一種)。桃の主要な生産地は、ローヌ河谷やガール県、ルーシヨン地方といったフランス最南部に集中しており、AOPは国内生産量の50%以上、約15万トンを支配下に収める有力団体である。桃の果樹園には以前から給水散布システムが行き渡っていて、土壌の乾きを抑えることができる上、乾燥気候には虫害を減少させるというメリットも指摘されている。さらにダルノー会長は「昨年のような開花時期の結氷といった気候上のトラブルも、今年は全くありませんでした」と述べて、桃にとって全般的に好調な気候を心から喜んでいるように見える。
さらに今年はもう一つ、特別な要素が加わっている。それは、従来からフランスが桃の3分の1を輸入しているスペインが、例の「大腸菌汚染キュウリ疑惑」に見舞われたこと。最終的に嫌疑は晴れたものの、大手スーパーがこの機に桃の入荷先を一斉に国内産地に切り替えたのだ。おかげで、比較的早い時期、いわゆる旬の桃が、(フランスより南に位置するため出荷時期が全般的に早い)スペイン産から国内産に変わり、例年の6月末より3週間も早い時期からフランス南部の桃が全国に出回るようになった。そして都合の良いことに、国産の桃が天候のおかげで非常に早熟傾向となり、需要と供給が見事にマッチする結果になったのである。
AOPの商品流通担当であるナタリー・フランク氏は、「桃は夏の果物というべきですが、昨年は(夏が終わって)消費が落ち込む9月に入ってから、生産量全体の30%を流通させなければならない状況でした」と語り、今年の順調さに改めて自信を示す。まあ、スペインでの風評被害から逆に恩恵を被っているわけなので、あまり手放しで喜ぶのは上品でないが、例えばパリの街中の市場や八百屋で桃を目にしたら、こんな背景にもちょっと思いをめぐらせてはどうだろう。