諸要因絡み変動が大きい昨今の消費動向

個人消費動向と言えば、一国の経済状況を示す非常に重要な指標であり、その行方がいろいろな意味で経済の健全性に影響を及ぼすファクターでもあって、しかも非常に多様な要因によって方向性が変化するという特色も持っている。いわば変動域が大きく、長期予測が非常に難しい指標の一つ。7月13日付『ル・フィガロ』紙は、振れ幅が大きかったフランスにおける今年上半期の消費動向について事後的なまとめ分析を行っている(Coup de froid sur les produits d’été. Le Figaro, 2011.7.11, p.28.)。
当ブログ既報の通り、今春のフランスは例年にない好天に恵まれ、気温も高めの日が続いた。こうした気候のおかげで、個人消費は極めて好調に推移。マーケティング関連のコンサル会社であるサンフォニーIRI社の調べによれば、大規模小売店舗における3月から5月までの売上高で、ミネラルウォーターは前年同期比8.2%増、清涼飲料水は9.5%、ビール及びシードルは10.5%のそれぞれ増を記録。さらにアイス・冷凍菓子は22.1%増、殺虫剤は34.1%増といった飛躍的とも言える伸びを示している。陽気につられて散歩、ピクニック、戸外での食事を楽しんだ人がよほど多かったのだろう(殺虫剤の売上増はその証拠と言えそう)。製造業者や販売店としては、お天気さまさまといったところではないか。
ところが、6月に入ると気候が一変、雨の日が多くなり気温も平年を下回る。上で挙げたような商品の消費はまさに「冷や水を浴びせられた」状態になり、1か月間をまとめたデータで、ミネラルウォーター3.8%、ビール3.6%、アイスクリーム3,8%のそれぞれ売上減となった。対照的に、スープの売上高が6.8%増加し、キッシュやその他冷凍食品(7%)、調理済み惣菜(5%)なども販売を伸ばしたが、やはり消費トレンドとしては「冷え込んだ」という印象が拭えないようだ。
天候という要因よりもっと一般的に消費動向に影響を及ぼすのが物価の動き。今年上半期にはこの点についても事態の変化があった。実は2月ぐらいまで消費者物価は全般的に非常に安定しており、ややデフレ気味の傾向すら見られたとされる。経済危機の時期に発生した大規模な消費減退の反動もあって、人々はこの時期、やや贅沢な物も含めて意欲的に日用品を消費する流れにあったと言われる。3月ぐらいからは一部品目の物価が上昇を始めたが、値上げが目立ったのは小麦粉、食用油、コーヒーなどに限られ、むしろ好天の影響が強かった結果、消費の低減といった現象は見られなかった。しかし5月に入ると、昨年同月比で1.3%という物価上昇が生じ、さすがの消費意欲にも息切れが起きてくる。
そして6月に記録された物価上昇率は2.2%。サンフォニーIRI社の分析ディレクターであるジャック・デュプレ氏は、「もしインフレ率が2.5%まで到達するようであれば、年末あたりには大規模小売店舗における商品販売量は低迷し、ほぼ伸び率ゼロまで落ち込むのではないでしょうか」と予測する。日用品消費の世界におけるうるわしい春は去り、後は厳しい秋冬が待つのみか。まあそれとても、予測の難しい消費動向のこと、下半期の実態はまた全く異なるものになる可能性も少なくはないけれど。