ディジョンFCO、昇格後も地元は地味な反応

海外サッカーに興味をお持ちの方ならもちろん御存知のはずのディジョンFCO。今年から松井大輔選手が加盟して、日本での知名度が一気に上がったチームである。ブルゴーニュ地域圏の中心地を本拠とし、1998年の設立後、約10年間でフランスアマチュア選手権、フランス全国選手権、リーグ・ドゥとステップを踏んで、いよいよ今シーズンからリーグ・アンに昇格した大出世クラブなのだが、さすがに強豪揃いのトップリーグでどのような戦いぶりができるのか、正直なところ期待と不安が入り混じるといったところかもしれない。7月23、24日付の『ラ・クロワ』紙は、飛躍を果たしたチームに対する地元の(決して冷たいということはないが)意外に淡々とした反応などを興味深く伝えている(Dijon se rêve en second ambassadeur du football bourguignon. La Croix, 2011.7.23-24, p.7.)。
それにしても、このクラブの着実な実力向上ぶりには驚かされる。ベルナール・グネッキ会長は、リーグ・ドゥに所属していた2006年に、「3年後にはリーグ・アンに昇格する」の「公約」を発表。さすがに3年では無理だったが、5年で見事に悲願を達成した。今ではグネッキ会長が町を歩くと、皆がおめでとうと声を掛けてくるのだという。
しかし、リーグ・アンでプレーしていくということは、サッカーの実力面で厳しいという以外に、地元にとって特に資金面で負担がかなり増すことを意味する。これまでチームは、820万ユーロという比較的質素な予算(リーグ・ドゥ内で14位、つまり下から7番目)で運営されてきた。昇格後はさすがにこれでは少ないというので、2,000万ユーロという予算が組まれているが、これはリーグ・アンで下から2番目の低額である。主な収入源はテレビ放送権と地元スポンサー(幸いなことに引く手あまたの由)。またこれまで以上に観客を集める(できればこれまでの2倍)ことで、入場料収入増を当て込んでいる。
一方、大きな課題になっているのがスタジアム。本拠地である市営のガストン・ジェラール競技場は、収容観客数やクオリティの面で改善が必要と言われるが、今のところ市当局は、段階的に必要な改修を行うという方針を崩していない。スポーツ担当助役のジェラール・デュピール氏は、「今年実施予定の工事では、750席のスタンド新設及び照明設置等を実施しますが、90万ユーロ程度の支出が見込まれます」と説明する。そして、「これに続き、最終目標である収容観客数の増加(現行の1万7,000人から2万2,000人へ)を実現するには、さらに2,000万ユーロの投資が必要です。我々としては、チームの動向も見つつ、この課題に対処していきたいと思います」との考えを示す。有り体に言えば、このままリーグ・アンに定着できるとは限らないので、様子を見させてもらいたいという含みなのだ。ずいぶんつれない感じもするが、グネッキ会長自身も「昇格したチームがすぐに降格するケースは80%」と認めているくらいなので、しかたがないのかもしれない。
市当局としては、サッカーだけ特別に力を入れる方針が取りにくいもう一つの理由がある。ディジョンは実にいろいろなスポーツで実績を誇っているのだ。代表格は男子バスケットボールで、110年の歴史を誇るチーム、ジャンヌダルクディジョンJDA)がプロリーグで活躍中。ここ20年間Aリーグを死守し、昨年はBリーグに下がったものの、今年は再び昇格を果たしている。その他、男子ハンドボール、アイスホッケー、女子体操、柔道などでも歴史と実績を誇るチームやサークルが存在する。デュピール助役は「スポーツ分野は市の予算の12%を占めており、この割合は長年安定して保たれています」とも主張し、多様な競技に目配りする必要がある市役所の立場に理解を求めている。
もっとも、こうした対応にディジョンFCOがそれほど不満を感じている様子はない。パトリス・カルトゥロン監督は、できるだけ金をかけずに実のある補強を実施し、有望な若手と経験豊富なベテランが上手に連携を取ることのできるチームづくりを目指していると言われる(松井選手もそういう観点から選ばれたのだろう)。そもそもブルゴーニュ地域圏では、ディジョンの北西約100キロのオセール市に、1905年創設以来100年以上の伝統を有し、リーグ・アンでの優勝経験もあるAJオセールという名門が存在する。新聞記事の表題からも察せられるように、ディジョンFCOとしては、とりあえず地域2番手の有力チームという地位をきちんと確保するのが当面の課題と心得ているのではないか。バランスを考え、また地域に根差し、中長期的な展望を見据えたスポーツチーム育成戦略の手本とも思えてくる。