雨の日は絵葉書を買って

観光地など、場所に関する写真や画像情報がネット上などに溢れかえっているのが現代ではあるけれども、それでも絵葉書はあまりすたれることもなく、旅行先での必須アイテムであり続けている。特にヨーロッパの場合、ヴァカンスは観光地巡りというより、居心地の良い所にじっくり滞在し、とりたてて何もせずにのんびりと過ごすというのが主流なので、滞在先から友人に絵葉書を送るという文化は、日本よりも根強く残っているように思われる。7月23日付『ル・パリジャン』紙は、ヴァカンスの時期に書かれ、発送される絵葉書に関する最近の傾向などについて伝えている(Les ventes de cartes postales au beau fixe. Le Parisien, 2011.7.23, p.11.)。
実はフランス、この7月は全国的に天候に恵まれていない。春の陽気とは対照的に、気温が低く雨の降る日が続き、ヴァカンスを存分に楽しむには程遠い状況。しかし興味深いことに、こうした時にこそ、太陽が燦々と輝く浜辺を写した絵葉書が良く売れる。リゾート滞在中の人々は、天気が悪いと屋外で楽しむことができないので、代わりに絵葉書をたくさん買ってきて一筆したため、ポストに投函するのだ。夏の熱気が伝わるような絵葉書と、それに全くそぐわない悪天候との組み合わせがなんとなく可笑しい。5,000種もの絵葉書を売り出している大手企業、イヴォン出版社のオリヴィエ・ドラジェ氏は、「要するに、彼らは『元気でやってます』ということを伝えるだけのために、絵葉書を買い、発送します。しかもハガキ書きに充てるため、天気が悪い日を待っていさえするのです」とまで言い切っている。
リサーチ会社LH2の調べでは、90%の人が旅行先から近況を伝えるために携帯電話を利用し、69%が絵葉書を出すという。さすがにケータイの普及は著しいが、まだ従来のポストカードもすたれつつあるとは言えないことがわかる。フランスだけで毎年平均3億3,000万枚を売る業界にとって、夏休みは年末年始(クリスマスと新年)に次ぐ第2のかき入れ時。この時期に天気が悪い方がかえって売上げが伸びることになっている。
ロワール河口に近く、大西洋に面したリゾート地、ラ・ボール−エスクブラ。この町のオセアン・ビーチで、たばこ・新聞雑誌販売店を営むフランソワ・サローン氏は、「7月14日と15日は天気が良く、絵葉書は80ユーロ売れました。16日になると天候が崩れたため、127ユーロ分も販売しています。晴天でない日には、絵葉書の売れ行きは2倍になることもあります」と説明する。ついでに言えばこの店では、雨天になると室内用ボードゲームスクラブル、リスク、ミールボーンズなど)がよく売れるという。晴れの日には代わりに屋外遊具が売れていくのだが(ビーチボールなどか?)、ボードゲームは利ザヤが大きいため、店主としては都合がよいそうだ。
ドラジェ氏はよく売れる絵葉書の種類を、「まずはリゾートそのものの写真、それから訪れた観光名所の写真。空からリゾートを撮影したものを買う人も多く、それに『私は今ここに滞在してます』という×印をつけて送るのです」と詳しく教えてくれる。さらに、夕暮れの情景よりも真昼間の人混みができた浜辺の様子の方が人気を得ているとも。これらの話、どうも自分の趣味(どうせなら風景を叙情的に描いたものを送りたい)と全然合わなくて困るのだが、フランスの人々はそのように夏を過ごし、また親しい人たちと連絡を取り合っているのだと理解しておくことにしよう。