エッフェル塔周辺の物売りに要注意!

パリの主要観光地、特にエッフェル塔下の広場付近に、怪しげな物売りが多く出没していることは、日本人観光客にもそれなりに知られて来ているらしい。もしそうならば、興味がなければ買わない、ツーリストの立場としては一応それで事が足りるような気がするけれど、地元の人々、特に正規の販売業者からすれば、現在の状況は由々しき事態であり、また警察の見立てでは、問題の根はかなり深いところにあるようだ。7月23日付の『ル・パリジャン』紙パリ市内版は、このあたりの事情と対策動向を詳しくレポートしている(Les vendeurs à la sauvette montrés du doigt. Le Parisien – Le Journal de Paris, 2011.7.23, p.1.)。
自治体等の許可を得ていない物売りが集中しているのは、エッフェル塔とその周辺のシャン・ド・マルスの広場から、イエナ橋を渡ってセーヌ対岸のトロカデロ庭園、水族館付近までの地域一帯。300人以上が地面に布を敷いたりして品物を並べ、あらゆる種類の土産物や飲み物、菓子、夜になるとアルコール類まで売っている。ここ30年近くの間、正規で売店を構えているというある業者は、「彼らは我々の目の前で、我々が付けている10分の1の値段で物を売るんですよ。自分はもう、来年この場所に戻ってきて商売するかどうかわかりません」と嘆き節。しかし、極端に安く販売できるのには訳がある。パリ商工会議所(CCIP)議員で、全国ホテル・レストラン同業組合(サンオルカ)のカフェ部会長でもあるマルセル・ブヌゼ氏は、「物売りから買う人たちは、質より値段、と思っているのでしょう。しかし実は、彼らが買っているもの(食品類)は賞味期限切れで、その上盗品でもあるのです」とからくりの一端を明らかにする。彼らはあちこちに売り物(実はどこかで盗まれた物)の倉庫を持っていて、警察の手入れを察知するとそこに全ての品を隠してしまうのだという。
こうした現状に対し、警察も手をこまねいているわけにはいかない。パリ観光会議局との協力体制を組み、「物売りから買うことは、闇の組織を潤すことです」と英語・フランス語で書かれたチラシを、7月23日から9月28日までの間、エッフェル塔近辺をはじめパリの主要観光スポットで配布することにした。また、観光地に近い地下鉄の各駅構内に、同様の趣旨を記したポスターを、8月10日から9月28日まで貼り出すことにしている。買い手の側(主に外国人観光客)に注意喚起することで、不法行為を抑止しようとする一大PR作戦とでも言えるかもしれない。
ただ、警察が取り組むべきは、「買わせない」という迂遠な方策ではなく、むしろ直接に違法販売者を摘発することではないかと考えるのも当然だろう。もちろんパリ警視庁ではそうした対策も実施しており、今年の第1四半期(1月から3月)に集中取り締まり(職務質問562件)を行っている。さらに、3月14日からは「国内治安に係る実績確保に関する指針及び計画に関する法律(LOPPSI)」が施行され、無許可販売者に対して禁固6か月、罰金3,750ユーロ(販売が集団で、もしくは脅迫や暴力を伴ってなされた場合には禁固1年、罰金1万5,000ユーロ)が課されることになった。しかし警察の情報によれば、いったんどこかに引き揚げた物売りたちが夏になって元の場所に戻って来ており、しかも観光客に対する言動や態度もより暴力的になってきている(無理やり買わせる傾向が出てきている)と言われる。新法に効果はないのだろうか?
総じて厳しさを増している違法物売り集団と警察との対立。しかも、盗品を大規模に販売へ回しているというのが事実ならば、背後組織のネットワークは相当綿密にはりめぐらされている可能性が高い。パリ警視庁でも根本的な対処策が見つからないほど、闇は深いのかもしれない。