関係業界が力入れる朝食市場の拡大

その昔、リンガフォンのフランス語版を勉強していた時(結局挫折したのだが)、「フランスの朝ごはんはクロワッサンとカフェオレだけで、味気ないことこの上ない」といったフレーズがあったように記憶している。そして御存知の通り、大方のフランス人の朝食は、今でも基本的にはその範囲を大きく出るものではない。バゲットを近所のパン屋で買って来てほぼ準備OKという朝の食生活を背景とすれば、いわゆる加工食品産業や外食産業は、この分野で目立った成果を上げようもないだろう。しかしそれでも、未開拓の市場があれば挑んでみようというのが企業精神というもの。8月17日付『ル・フィガロ』紙は、最近熱を帯びて来ていると言われる朝食市場の開拓について、最新事情を伝えている(Innovations en série au rayon petit déjeuner. Le Figaro, 2011.8.17, p.22.)。
この記事の指摘では、今年に入ってとりわけ、朝食に照準を定めた新商品の開発が相次いでいると言われる。ダノングループに属するアクティヴィア・ブランドが発売した、フルーツやシリアルにかけるヨーグルト。子ども以外のニーズを狙うケロッグの立方体型パックのシリアル。シャルル・エ・アリス社のブランド「エロー」から出された朝食向けコンポート(果物のシロップ煮込み)。伝統的にメーカーの商品が買われる割合は低いと考えられるパンについても、アリーズ社が高級食パンのシリーズを市場に投入し、ジャケ社もホームメイド感を出した食パンを新発売している。市場調査会社であるグゼルフィによれば、こうした新商品ラッシュは、スーパーで総計約50億ユーロと見られる朝食関係商品の市場争奪、あるいは拡張を目指すものだが、実のところ、この市場は販売点数にして1年で1%からせいぜい2.5%しか成長しない、むしろ停滞気味と言ってもよいような分野とされているのである。
黙っていては伸びを期待できない市場ということで、各社は新しい顧客層の獲得により売り上げ増を目指そうとする。その典型がケロッグの場合。シリアル類の売上高の43%を占めるフランス・ケロッグ社のフランソワ・ルイイ社長は、「フランス人はイギリス人の4分の1しかシリアルを食べないのです」と嘆き、そこで「業容拡大のポテンシャルは青年層、それから大人(に食べてもらうこと)にあると考えています」と続ける。現在、子どもの92%はコーンフレークその他を食べているが、大人ではその割合は43%に過ぎない。同社では子ども以外の層、特に男性をターゲットにして「トレゾール」という食べ応えのある新商品を発売し、これと合わせて徹底的に男性に訴求する広告を打った。こうした努力により、フランス国内の売上高を年5%から10%程度増やしたいというのが同社の意向だが、さてどのような結果となるか。
一方、外食産業にとっても、朝食は扱いが難しい分野。パリ東駅近くのカフェ・エクステリユール・ケを経営し、全国ホテル・レストラン同業組合(サンオルカ)のカフェ部会長でもあるマルセル・ブヌゼ氏は、「朝食は、カフェやブラッスリーの売上高のうちの2%でしかないのです」とほぼ諦めムード。マクドナルドのフランス・南ヨーロッパ営業本部で副本部長を務めるイザベル・クステル氏も、「イギリス、ドイツ、オランダ等と違って、フランス人はそもそも朝ごはんを食べに外出するという発想がありません。かなりの人がコーヒーを飲むだけで済ませ、お昼までわざと空腹にしておくという傾向があります」と状況を分析している。ただ、こうした状況を多少とも打破するため、フランスのマクドナルドでは、これまでのアメリカ風朝食セット(エッグマフィンとパンケーキが両方ついてくる)に代えて、バゲット(バター・ジャム付き)とエスプレッソだけという新セットを近く一部店舗に導入する予定とのこと。この組み合わせはまさにフランス的朝食そのものなので、ある程度の顧客増は見込めるかもしれない(客単価はその分下がってしまうが)。
少し様子が異なるのはホテルでの朝食、それもビジネス・ブレックファスト。シャンゼリゼに近いモンテーニュ通り沿いの高級ホテル、プラザ・アテネでは、アラン・デュカスのレストランで160万ユーロ、その他の店も合わせると年間合計300万ユーロを、朝食関係で売り上げている。デュカスの店ではエスプレッソ1杯がなんと8ユーロ、朝食時の1人当たりの平均支払額は50ユーロに達する。そして、大企業のトップたちが8時から10時ぐらいに軒並みここを訪れ、ちょっとした会談、打合せなどを済ませていくのだという。もっとも同ホテルとしては、朝食も昼食も人件費は変わらないのに、客単価は大きく異なるので、朝食は相対的にはそれほど儲かるものでないという認識も持っているらしい。まあ超高級路線は絶対に一般化できないし、朝食市場としての意味は大きくはないだろうが、少なくともパリでの朝食像のオプションの一つとして認識しておく価値ぐらいはありそう。