ユーロ下がれば中古車売れず?

スイスの通貨高についてはこのブログで以前にも取り上げたとおり。その後、スイス国立銀行が対ユーロのレートに上限目標値を設定すると発表し、急激なスイスフラン高は一段落したような様相もあるけれど、なにせユーロを巡る情勢が不透明過ぎるだけに、安定が取り戻されたとはみなすことは不可能だろう。さて、スイスフラン高は商工業から市民の暮らしまであらゆる分野に影響を及ぼしているが、9月5日付『ヴァンキャトルール』紙は、中古車市場に対する為替変動の(意外とは言えないが相当に深刻な)影響について検討している(Les euro-rabais plombent la vente des occasions. 24 heures, 2011.9.5, p.21.)。
まず最初におおまかな図式を示しておくと、要するにスイスでは自国通貨高の場合、主に国外で生産され輸入される自動車の価格が安くなり、また周辺のユーロ諸国から車を直接輸入の形で手に入れるのも有利な買い方となる(陸続きだからインターネット等を利用すれば手続きもかなり容易)。その結果としてスイス国内ディーラー、特に中古車を扱う業者は極端な販売難にあえぐようになる。特に今回はフラン高(というよりユーロ安)の規模と勢いが激しいだけに、中古車販売店の痛手には相当のものがあるようだ。
為替の動きに直面して、まず活発に動き出すのは新車のディーラーである。「ユーロボーナス」、「キャッシュ・ボーナス」(現金還元ということか?)、「プレミアム・ユーロ」といった数々のキャッチフレーズと販売促進策(オプション無料サービス等を含む)を打ち出し、地元消費者の購買欲を喚起しようとする。実際、スズキ、ルノー、キア(韓国)、オペル等の新車が、7,000〜10,000スイスフラン(約63万円〜90万円)の値引き当たり前という趨勢となっており、メルセデスの真新しい車に対してさえ、20%の値引きを提示する業者が現れていると言われる。ドイツ車を中心に扱うある業者(匿名)は、「自動車は、為替変動によって最も影響を被っている業種の一つです、なぜならユーロ安で家具が安くなったなどという話は聞きませんから。抱えている在庫を減らすため、我々は14,000スイスフランの値下げに加えて無料オプション付与の形を取った15%のプライスダウン、合計で25から30%の値下げを強いられています」と、強烈な現状を告白している。
一方の中古車市場。スイスでは中古車といっても比較的新しい車が多く市場に出ており、新車登録からわずか1年、走行距離も2万キロ程度といった物件の割合が高い。仕入時の価格が原価になることから、収益を見込んで価格設定した場合、値引きされた同じモデルの新車とほぼ値段が変わらないという状況が実際に生じている。そして結果として、売れ残りの中古車が車庫に滞留するか、もしくは利ザヤが激減するか(あるいはその両方)という事態が、多くの業者で生じることになる。特に厳しいのが10台から20台程度を預っている中小ディーラー。彼らに販売を委託している売り手側が(スイスフラン高進行前に)予定されていた金額を引き続き要求するのに対し、買い手は20%から30%の値引きがなければ購入に応じない。このため、仮に商談が成立しても、結局業者は赤字になってしまうというケースも決して少なくない。
為替の高低がもたらす損得は、立場(製造者、流通業者、消費者)によっても業種によっても異なるので一概には言えないわけだが、変動対象であるユーロ圏がすぐ近隣という環境は、スイスに日本とはまた違った影響(悪影響及び好影響)をもたらすということだろう。それにしても、ユーロは遠くない先に安定した着地点を見出すことができるのだろうか。