新規参入続きパリ高級ホテル戦争勃発か

東京が高級ホテル激戦区と呼ばれ、特に外資系の著名ホテルが続々進出して既存施設との争いを繰り広げるようになったのはいつ頃からだったか。現在のパリも、どうやらこれとかなり似たような環境にあるようだ。9月1日付『ル・パリジャン』紙パリ市内版は、昨年から今年前半にかけて相次いでオープンした高級ホテルの人気ぶりや、この夏の営業状況などを紹介している(Les trois nouveaux palaces ont réussi leur percée. Le Parisien – Le Journal de Paris. 2011.9.1, p.1.)。
パリで最近注目されている新規参入の高級ホテルは、ロワイヤル・モンソー(昨年10月開業)、シャングリ・ラ(昨年12月開業)、マンダリン・オリエンタル(6月28日開業)の3軒。ロワイヤル・モンソーはラッフルズ・ホテルグループに属し、2008年6月以来大規模な改装を行って、モンソー公園と凱旋門の中間付近の好立地で新装オープンしたもの。シャングリ・ラはシャイヨ宮のすぐ北東側にあり、ナポレオン?世の弟リュシアンの孫ロラン・ボナパルトによって1896年に建てられた邸宅をその原点としている。またマンダリン・オリエンタルは、チュイルリー公園にも近いフォーブール・サン−トノレ通り沿いというまさにパリの中心地に堂々のオープンを果たした。前二者は『ミシュランガイド2011年版』で、既にいわゆる「ファイブ・レッド・パビリオン」、最高級ホテル(パリではこれら2軒を加えて計10軒)として格付けされている。
そのマンダリン・オリエンタルで販売・マーケティング担当部長を務めるアンドレ・ドゥヴィエ氏は、「私たちが他のホテル共々新たに登場したことで、他の高級ホテルに何らか影響があることは明らかでありましょう」と断言。事実、先に開業している2つのホテルは既に夏期の客室稼働率を算出しており、モンソーは7月75%、8月は60%。またシャングリ・ラの場合は7月85%、8月50%という数字が記録されていて、これらは相当程度の好成績を示しているようだ。パリの場合、どうしても夏はビジネス客が減少、観光客もそう多くは見込めないだけに、稼働率が少なからず低下するのが避けられないことは織り込み済みなのだろう。
それぞれの新規参入ホテルの宿泊客に対する取材内容も、記事では取り上げられている。同じブランドの別のホテル(アジアの諸都市のものが多い)に滞在したことがあり、その時の体験から興味と期待を持って、パリのホテルに泊まりに来たという人が少なくない。ロワイヤル・モンソーは多少前衛的なインテリアなどが好評のようだし、シャングリ・ラでは、セーヌの流れやエッフェル塔に面した豊かな眺めを堪能できるテラスなどがポイントのようだ。パリ在住ながら、既に7つの市内高級ホテルを訪ねたことがあるという国際マーケティング専攻の学生は、マンダリン・オリエンタルについて「こんな場所に来られる日を待っていました」と手放しの評価。バーも庭園もレストランもすばらしい。そして「エレガントでピュアな雰囲気」が何より素敵だと絶賛している。
一方でもちろん、既存のホテルもただ打ちひしがれているというわけではない。むしろコンコルド広場に近い超有名ホテル、プラザ・アテネの支配人であるフランソワ・ドゥラエ氏は、「(新規ホテルの登場は)我々の業績には何らの影響もありません」と強気の表明。現に、室料の平均が1,100ユーロという超高級なこのホテルにおいて、7月の稼働率はなんと96%であるという。もともと、この記事自体がおそらく新しいホテルを目立たせようという意図で書かれていることは明らかだが、結局古き佳きものも大事にするこの街では、新しいものへの興味や人気もさることながら、伝統の良さ(もちろん、必要な改修や現代化は十分になされているという条件付きで)も決して忘れられることなく評価され続けていくのではないだろうか。