自国産ワインを在外公館で積極提供へ

ワインの主要生産国としてスイスを挙げる向きは、それほど多くはないかもしれない。しかし、気候温暖化も手伝ってか、近年この国で赤・白とも優れたワインが生産され、流通していることは事実。そうなると次には、国際的にスイスワインをどのように認知してもらうかが課題となってくる。9月16日付『トリビューン・ドゥ・ジュネーブ』紙は、連邦議会議員などが声を挙げることによって、各国に設置されたスイス大使館等で、自国で作られたワインを活用する動きが広がっていると報じている(Les ambassadeurs chargés de la promotion du vin suisse. Tribune de Genève, 2011.9.16, p.8.)。
9月15日、スイス連邦議会の全州院(上院)では一風変わった決定がなされた。スイスが世界に配置する各在外公館に対し、自国産のワイン等の普及に向けた十分な役割を果たすよう求めることが議決されたのである。今後、行政府である連邦参事会が具体的に、大使館や外国開催のイベント(万国博覧会など)での出展ブース等において、今以上にスイス産品を供するよう促す政令を、遠からず制定する見通しとなっている。
スイスワインを外国に知ってもらうための努力が足りないという点については、以前からいろいろと指摘されていた。上海万博のスイス館で振る舞われたワインがイタリアやスペインのものだったことが問題視されたり、パスカル・クシュパン元大統領がブリュッセルEU代表部を訪問した際に飲んだワインがボルドー産だった点に疑問が集まるなど、実例にも事欠かない。ヴァレー州選出国民院(下院)議員のクリストフ・ダルブレイ氏は、「フランスの大使がフランス以外のワインで客をもてなすことなどあり得ないでしょう。これは国の誇り、アイデンティティの問題なのです」と、在外公館こそ自国の産品を大事にすべしと語気を強める。他の議員も巻き込みつつ、こうした動きが実る形で今回の全州院での議決になったわけだ。
かつてジュネーブ州政府の内務及び農業担当州参事だったロベール・クラメル氏(現・全州院議員)は、当時ニューヨークの国連代表部にて、スイス産のワインを提供させるためにどれほど奮闘しなければならなかったかを振り返り、「(在外公館でスイスワインをサーブさせるには)数年前は多々難しい面がありました。最近では外交官たちもすいぶん気を配ってくれています」と述懐する。政令の制定を待たずして動き出している大使館等も多く、「ワシントン(在米大使館)を訪問した時に、チューリヒのワインが出た」、「タイ駐在の外交官は、特に故郷のワインを大事にしてくれている」といった報告が、旅行帰りの議員などから続々と寄せられているとも言われる。
ちなみに、今回政府が発出する内容は「スイス産品を供するよう促す」であって、スイスのものを出すことを義務付けるわけではない。これは、諸々の事情背景を考慮すべきという一般的な理由以外に、「ワイン名産地に所在する公館でわざわざスイスのものを押し付けるように出すのも品がない」という状況に対処するものと言われる。いずれにせよ、今までフランスからの高級輸入品など使っていた分を相当自国産に置き換えることになると、(正直に言えば)コスト削減につながるという要素もあり、財政面でも少なからず歓迎されるのではないだろうか。
そういえば日本の在外公館でも、日本酒と並んで、甲州や長野産のワインを提供していくような動きがあると言われる。これまでの報道等によれば、やはり大使館のワインストックというとヨーロッパのものが多かったようだが、今後スイスと同じような取組みが進むのであれば興味深い。