アコーホテルズがブランド再編へ

ホテルの話題がなんとなく連続しているが、今回は巨大ホテルグループがテーマ。「ソフィテル」「ノボテル」などのホテルブランドで知られる仏「アコーホテルズ」は、日本では(何店か進出しているものの)知名度が高いとは言い難いけれど、ヨーロッパ中心で約90か国に4,200施設を擁し、年間約60億ユーロの売上高を誇る大企業。9月11日付『ジュルナル・デュ・ディマンシュ』紙は、このアコーが新たに迎えた社長のもとで、ブランドの大規模再編を軸とした戦略転換に取り組み出していると報じている(Accor fait le ménage dans ses marques. Le Journal du Dimanche, 2011.9.11, p.23.)。
約9か月前にアコーホテルズの代表取締役社長に就任したドゥニ・エンヌカン氏が初めて迎える、9月13日の株主総会。パリ12区のオテル・プルマン・ベルシー(「プルマン」は「ソフィテル」に次ぐアコー第2の高級ブランド)で開かれたこの重要会合で、新社長が打ち出した方針は、相対的に安い価格帯に属するブランドを統合・再編することで、アコー全体の営業力強化を目指すという点に集約される。具体的には、現行の「イビス」(900施設)、「オール・シーズンズ」(115施設)、「エタップ」(421施設)の3ブランドを「イビス」一本に集約し、サブグループとして「イビス(現行のまま)」「イビス・スタイルズ」「イビス・バジェット」という名称を与える。またマークとしてはこれまで「オール・シーズンズ」で使用されていた枕型のものを「イビス」全体で採用することとし、サブグループそれぞれに赤、緑、青の色を割り当てることになっている。
アコーホテルズを構成する施設の36%(米国を除く)を占め、18億ユーロを売り上げている3ブランドがほぼ統一されることで、期待されるのは一丸となった営業展開。同社の元幹部は、「この統合によって、フランス国内でアコーはよりプレゼンスを示しやすくなり、また国際的にも運営が強化されるのではないでしょうか」と、再編計画を評価する。BNPパリバグループに属する投資会社エグザンヌ社のアナリスト、マティア・デマレ氏も、「イビスという名前に集約して発展を図ることにより、アコーホテルズは、『ホリディ・イン』ブランドで拡大を続けるイギリスのインターコンチネンタルグループに対抗できる位置に立つことができるのではないでしょうか」と、経営戦略上の意義を説明する。
もっとも、急激な戦略の変更に戸惑う声もないわけではない。特に「オール・シーズンズ」のフランチャイズ店オーナーの間では、わずか3年前に当の「イビス」からの差別化を図るという旗印の下で発足した同ブランドが、再び「イビス」に吸収されることで、経営が後退したのではと感じる向きも少なくなかったという。そこでエンヌカン社長が直接これらのオーナーたちとの交渉に乗り出し、この夏、ブランドやマークの変更に伴う費用はグループ本体が負担するということで、大方の決着を見たと言われている。
これだけの再編を急速に実施するには、当然それなりの背景もある。現在、アコーホテルズの株の27.22%は、投資ファンドであるコロニー・キャピタルとユーラゼオとの共同出資会社に握られており、取締役11名中4名もこれらのファンドから送り込まれている。一方、投資ファンドがアコーへの攻勢を強めるのと軌を同じくして、株価は相当度に低下している。2011年上半期の売上高はグループ全体で前年比4.4%の伸びという実績を出したものの、国際的な競争環境等も考慮すると決して安心できる状況とは言えず、株主から確実なリターンを強く求められる事情もあって、強固なテコ入れが必至ということなのだろう。それこそ「イビス」それから「メルキュール」など、自分もこのグループのホテルに宿泊する機会が少なくはないが、今後の行方は注目しておかなければなるまい。