FIFA、UEFAに課税すべきかで論議勃発

国際サッカー連盟FIFA)、そして欧州サッカー連盟UEFA)と言えば、ワールドカップ欧州選手権といった、世界で最も盛り上がるといってもよいスポーツイベントを主催し、もって世界のサッカースポーツ振興に貢献している。ただ一方で、巨大興行主としての性格を否応なく持つこともあり、諸々の黒い噂やスキャンダル騒ぎが持ち上がることも少なくない。そうした中で最近、両連盟が本拠を構えるスイスで、これまで免除されてきた連邦税を今後は徴収すべきではないかという声が上がり、賛成・反対の議論が飛び交っているようだ。9月16日付の『トリビューン・ドゥ・ジュネーブ』紙はこの話題を取り上げ、賛否の意見を併記しつつ論点を示している(Faut-il continuer à exonérer d’impôts l’UEFA et la FIFA? Tribune de Geneve, 2011.9.16, p.5.)。
今回の議論の口火を切ったのは、スイス南部、ヴァレー州の州都にある強豪サッカークラブチーム、FCシオンのクリスチャン・コンスタンタン監督。彼は9月14日に、スイス連邦参事会に対し、「FIFA及びUEFAという『金融帝国』に対する税制上の特典廃止」を求める正式文書を提出した。クラブチームの監督がこんな行動に及ぶのは一見不自然だが、これには込み入った背景がある。3年前、FCシオンがエジプトから獲得した選手の移籍手続きをFIFAが不適切と判定し、同チームの移籍活動を禁止。しかしFCシオンはそれを無視する形で移籍選手の獲得を続け、また彼らを試合に出場させた結果、今年8月のヨーロッパリーグでの勝利を無効と判定され、グループステージの出場資格を剥奪された。こうしたFIFA及びUEFAによる決定を非難し、現在も反発を続けているコンスタンタン監督が、反抗の勢い余ってか、それとも単なる腹いせか(?)、「どちらの連盟もちゃんと税金を払え」という、紛争それ自体とは次元の全く異なる反撃技を繰り出したのだ。
確かに、FIFAUEFAも、公益を増進する団体とみなされ、現在は連邦税を免除されている。地方税については、FIFAは本拠地のあるチューリヒ州と市に対して支払っているけれど、一方のUEFAは所在するヴォー州に対する税金さえ免除されているのが現状。結果としてFIFAは、2007年から2010年までの間に、普通の企業であれば1億8,000万スイスフラン(約153億円)の税を支払うべきところ、実際には3,100万スイスフランしか貢納していないとされる。こうした実情、さらに冒頭で触れたような世間の評判も踏まえ、連邦議会ではこれまで何度も、両サッカー連盟に対する免税廃止、課税強化を検討する動きがあったが、いずれも本格的な実施には至っていない。
ジュネーブ州選出の国民院(下院)議員であるカルロ・ソマルガ氏は、FIFAUEFAに断固課税すべしという立場。「両連盟はもはや公益に資する団体ではなく、スポーツ振興を隠れ蓑にした企業です」と断言し、同氏が会長を務めるスイス不動産賃貸業協会(ASLOCA)では、収益事業の分については税金を払っているとも説明して、コンスタンタン監督の訴えを(動機はどうであれ)真摯に受け止めるべきと主張する。またソマルガ氏は、両連盟が抱える黒い噂はスイスのイメージを損なうものであり、腐敗状況を正すために、一刻も早く強制捜査を実施すべき時期に来ているとも述べている。
一方、FIFAUEFAは現在も公益性を保っていると指摘するのは、ヴォー州選出国民院議員で、ローザンヌ市の公共工事担当参事でもあるオリヴィエ・フランセ氏。コンスタンタン監督の行動は個人的な思惑に基づくものであり、現実には両サッカー連盟の収益は、グランドの建設整備など、公共の利益に役立てられている、また会計面の透明性確保に向けた努力も継続されていると主張する。また連邦税を課すことでFIFAUEFAが本拠地をスイス以外の国に移した場合、例えばヴォー州がUEFA本部の存在から得ている3億フランとも言われる経済効果(ホテル・レストラン部門を除く)や雇用創出効果が失われることにもなりかねないと、警戒感も表明する。もっとも新聞記者の「FIFAの会長やその同僚は、5,000万スイスフランものボーナスを受け取っているようですが(それで良いのでしょうか)?」という質問に対しては、「そうした事実は確認されていません」と一転弱気に。
まあ、FCシオンの案件は詳細がよくわからず、正邪をにわかには判断し難いが、それをきっかけに噴出したFIFAUEFAの在り方をめぐる議論には、確かに一定の意味があると思われる。ただそうは言っても、『黒いスイス』の謂ではないけれど、両連盟の清濁併せ飲むような存在からスイスも少なからず利益を得てきているのが実態のはず。そう考えると、今回の問題提起も、これまでと同様にうやむやに終わってしまうのではないかと推測できるのだが、さて展開はいかに。