冬用タイヤの販売が不足している

秋らしくない暑さ・温かさがずっと続いているように思っていたら、いつの間にか季節はめぐり、北国では本格的に雪の便りが聞かれるようになった。この時期、北海道・東北や北陸、さらに山間部で活躍するのが冬用タイヤ。履き替えは多少面倒とはいえど、雪道走行の安全のためには欠かせないアイテムだ。ところが所変わればなんとやら、11月5日付のスイス『ル・マタン』紙の報道によれば、多くの場合雪道を避けて通れないはずのこの山国で、なぜか冬用タイヤの在庫が不足しているのだという(Le froid arrive, sauve qui pneus! Le Matin, 2011.11.5, p.10.)。いったいどうしたというのだろう?
スイス・ツーリングクラブ(TCS、日本のJAFに相当)の広報担当者、モレノ・ヴォルピ氏によれば、スイスでは10月からイースターの時分まで、冬用タイヤの装着が推奨されるとか。しかし実際には、どの販売業者、卸売業者でも、11月初旬の段階でこの商品に明らかな品薄状態が生じており、完全な解消の見通しも立っていないという。
ローザンヌ市近くで自動車販売・整備業を営むベルモン社のクロード・ルルシュ氏によれば、四輪駆動車向けを中心に、若干のサイズのタイヤが欠品になっている由。ラパン・タイヤ社のミシェル・ラパン氏に至っては、「今年は去年より事情が悪化しており、ひどい状況です。いくつかのタイヤメーカーのものは9月以降全然入っていません。また特別な車、例えば小型トラック用の冬用タイヤも極めて不足しています」と、非常に厳しい事情を隠すことなく提示している。
ただ一方で、関係者間の意見が一致しているのは、タイヤ不足が一部の車種、一部のタイヤメーカー、一部のサイズのものに限られており、代替品まで含めれば何とかなる状況だということ。つまり、特定のブランドのタイヤ(自分の車に最も適合するもの)は売り切れでも、他のメーカーでよいと妥協すれば大丈夫ということらしい。ベルモン社やラパン・タイヤ社といった比較的大きめの業者では、製造会社との日頃の取引実績や電話による頻繁なコンタクトなどが功を奏し、消費者のニーズに相当程度応えることができているし、TCSでは30種程度を列挙した「お薦めタイヤリスト」を作成して、ユーザーが適当な冬用タイヤを購入できるよう支援している。もっとも、いずれの業者とも「(タイヤ購入をお考えの方は)お早めのお問い合わせ、ご連絡を」と呼び掛けるのを忘れてはいないけれど。
それにしても、不景気で全般には「物が売れない」ことこそが問題になっている現在、こんな重要商品の不足がどうして起こるのか。同じドイツ語圏のドイツやオーストリアで冬用タイヤの装着が義務化されていること(そのため両国の需要が優先される傾向に)、さらに最近になって新車の販売が急に増勢に転じたため、見込み違いが起こり、新車以外のタイヤが逼迫する結果になっていることなどがさしあたり指摘されている。また、ちょっと興味深かったのは、インドを中心とするアジア諸国での車の需要が沸騰しており、これらの地域に対応するタイヤ、すなわち夏用のタイヤが生産の中心になりがちであるというのが、理由の一つとされていること。世界経済の全体的動向が「スイスの冬用タイヤ」にまで潜在的な影響を及ぼしているという見方は、穿っているかもしれないがなかなか鋭いものと思われる。