パリ滞在記その2

朝、5時20分に目が覚める。まだ時差が効いているようだ。すかさずテレビをつけ、M6のビデオクリップをチェック。以前は空き時間を使って盛大にミュージックビデオを流していたM6も、最近は午前3時から6時ぐらいまで。M6の後はiTELE(キャナル・プリュス系列の報道専門局)に切り替えてうつらうつらしていると、ようやく7時に仕掛けてあったモーニングコールが鳴った。
ホテル2階の朝食会場は北駅に面している。まだ真っ暗だがバス待ちの人がそれなりに佇んでいる。でも普段に比べれば、クリスマス休暇中のこの時期、朝の人出は相当少ない方だろう。ビュッフェにはコールドミート、チーズ、スクランブルエッグ、ソーセージなどが並ぶが、野菜は少ない。パンはさすがの美味しさ。自然派メニューのコーナーが特設されており、パン、ミルク、ヨーグルトからコーヒーまで、一通りの食事を自然派だけで済ませられる仕組みになっている。
朝食の後はテレビからラジオに切り替えて、公共放送「フランス・ブルー」のパリ近郊向けローカル番組を。音楽ではなく、地域の時事問題に関する解説をやっているらしい。8時を越すと、曇りの天気とは言え、ようやくあたりが明るくなってきた。
9時過ぎにホテルを出て、まずは歩いてみようと南西方向に進む。明るければ夜歩きの心もとなさはなく、足取りも軽やか。新聞は「今年の12月は例年にない暖かさ」と伝えており、確かに朝でも底冷えのような感じは全くない。30分弱でサン−ラザール駅に着いたら、前面部が大改修工事中で様子が大幅に変わっている。最新設備(ホームドア完備)の地下鉄14号線で、一路国立図書館へ。
10時半頃、ベルシー地区対岸の再開発地域、冬はいつ来ても寒々しいフランス国立図書館の屋上部から斜めに下って入場。一般向けのフロアに入ろうとして入場料3.50ユーロを握り締め窓口に立つと、いきなり拒絶される。全ての閲覧室が満席になっているので入場できないとのことで、確かに横の電光掲示板には「満席」の表示が並んでいる。はるばる来てもこれではいたしかたなし。せめてグッズでもと思い、入口脇の売店に立ち寄るが、ここで売っているのは普通の本がほとんどで、国立図書館グッズと言えるものはほとんどない。それでもノートやらメモ帳を少し手に入れ、わずかな土産にする。
再び14号線で都心部に。ルーヴル美術館の脇では装飾芸術美術館、モードと織物美術館、広告博物館が一体運営されている(入場券も共通)のだが、服飾デザインがテーマのモード美術館の方を見るつもりが他の観覧客に引きずられる形で装飾芸術の方に入ってしまう。企画展で「ぞうのババール80周年展」というのをやっており、それなりにほのぼのする内容だったが、基本的には子ども向け。それ以外に「時代ごとの椅子のかたちの変遷」といったものを見せられたけれど、バウハウスやユーゲントシュティール以降のデザイン動向といったことには著しく暗いので、結局意味がよくわからないままに建物を出てしまった。
12時半にオペラ座近くの韓国料理店に向かう。お昼のコースが4種類あるが、12.50ユーロのDコースを頼むと、前菜(餃子)、メイン(豚焼肉など選択式)の他に、小鉢が5つ(メニューには4つと書いてあったが)付いてきた(小鉢がつくのはDコースのみ)。春雨炒め、ブロッコリー、キムチ、もやし炒め、じゃがいもと、どれも美味しく、焼肉もテーブルコンロを卓上に持ち込む本格派で満足。この小鉢、日本の韓国料理店でもぜひ並べてくれないものかと切に願う。入った店は初めこそ空いていたが、午後1時過ぎにはほぼ満席に。店を出ると、あたり一帯の日本料理店(オペラ座周辺には比較的きちんとした和食の店が以前から多い)の前には、軒並み行列が出来ている。休暇でパリを訪れた人々がこの機会に日本食を楽しもうとしているのか、それとも普段からの人気なのか。いずれにせよ御同慶の至りではある。
食後ふと思い出して、装飾芸術図書館のショップに戻る。こちらも美術書が中心の品揃えだが、一部本格的な装飾品も。くだんのババールのグッズがいくつかあったので手に入れた。続いてオランジュリー美術館に向かうべく、チュイルリー公園を横切る。霧雨が本格的に降りだしたものの、ヨーロッパらしくほとんど傘をさす者はない(10人に1人ぐらいか)。多少濡れそぼりつつ中央の噴水に出て、オルセー美術館を左手に見ながらコンコルド広場方面に歩く。さすがに楽しい散歩とは言えないけれど、これもまたパリの風情。
1時55分にオランジュリー美術館のそばに辿り着くと、多少行列が出来ている。まあすぐに前進するだろうと思いつつ並んだら、なんと入場まで30分。入場券を事前購入している人向けに別の列があり、そちらを優先する仕組みになっていた。コンコルドに最近またお目見えしている観覧車が動いているのをぼんやり眺めながら、寒空の下に佇む。
オランジュリー美術館は長く改修期にあり、かねてから訪ねたかった場所。モネの睡蓮画が壁を占める2つの大広間が圧巻なのは言うまでもないが、それ以外にもルノワールセザンヌユトリロなど圧倒的なコレクションが集まっている。この日はむしろ特別展である「スペイン絵画展」の方に人が流れていて、その分ルノワールを間近で充分に鑑賞することができた。ミュージアムショップも睡蓮画をモチーフにしたものを中心に、商品ラインナップの良さが際立っている。
美術館を出てマドレーヌ広場へと。シャンゼリゼを一望できる観覧車はやはり人気があり、50人ぐらいの待ちが出ていたようだが、「観覧車だけに」回転はよさそうだった。マドレーヌ広場では、マルキーズ・ドゥ・セヴィニェでマロングラッセ、ニコラでワインをそれぞれ購入。手荷物がきつくなったのでタクシーでホテルに戻った。
5時頃、地下鉄で再びカルチェ・ラタンに向かう。昨日閉まりかけていた書店「ジベール・ジュンヌ」に立ち寄るが、取り立てて買わず。教会コンサートが開かれるサン・ジュリアン・ル・ポーヴル教会に開演20分前に到着した。チケットは23ユーロ、それに加えてプログラムがほしい人は追加で3ユーロというものの、プログラムはA4のペラ紙が2枚だけ。まあそれも献金の一種と思うべきなのだろう。6時開演、ニコラ・ボワイエ氏によるショパンのピアノ作品演奏を楽しむ。教会にふらりと立ち寄って音楽を聞けるのもやはりこの街ならでは。
7時20分頃、今日は少し疲れてきたので、手早く夕食を済ませるべくレアールにあるセルフサービスレストラン「フランチ」を目指す。ノートルダム寺院、市庁舎前(アイスリンクで若者たちが熱狂中)を経由して辿りついてみると、なんとレアールは大規模改修中で、地上階は解体済み(もっとも地下はほとんど残っているらしい)。諦めて北駅に戻り、ホテルの同じ名の「テルミニュス・ノール」というレストラン(ホテルと経営は別)で、生ガキ、スズキのソテー、チョコケーキ&アイスというかなりしっかりしたディナーをいただく。部屋に戻るとフランス3で少年コーラスを中心にした番組をやっているが、眠気に負け、ほどなく就寝。