ディスカウンター急速進出で流通競争激化

日本でも最近では、ひたすら低価格に重点を置く小売店ハードディスカウンター」という概念がゆるやかに、しかし着実に定着しつつあるようだが、諸外国の状況は場合によっては熾烈を極めているようだ。スイスではこれまでの2大スーパーチェーンに対抗する形で、ディスカウンター的店舗が急速に進出しつつあり、既存店を脅かしつつあるという。12月15日付の『ヴァンキャトルール』紙は、こうしたディスカウンターの最新動向、そして急速に塗り替わり厳しさを増す流通現場の状況について伝えている(Les discounters foncent malgré les feux orange. 24 heures, 2011.12.15, p.15.)。
近年スイス国内で勢いをつけているディスカウンターは主に3社。経済危機のあおりを受け、この国でも消費をめぐる環境は決して明るくはないが、各社はそうした状況についてあまり意に介していないようだ。なかでも新規開店などの動きが盛んなのが「デンナー」、「アルディ」の2つのチェーン。アルディはドイツに本部を置きつつ全欧州及びアメリカに展開しており、スイスでは1995年に現地法人が置かれて以来、現在までに約150の店舗を持つまでに成長した。このうち25店がフランス語圏にあって、ジュネーブ周辺に3店舗、ヴォー州内には11店舗を数える。同社の広報担当、ルネ・ラーナー氏は、「2、3年後には全200店舗ぐらいの規模に持っていきたいです」と語り、また「我々は『身近にあるディスカウンター』を目指しています。現在でも、スイスに住む人のうち90%が、10分以内に我々の店に来られる状況です」と説明する。確かに、ヴォー州内でちょうど12月15日に開店した最新のショップは、ローザンヌから東北東に10キロのオロン村に立地している。周辺に2万人の潜在的顧客を確保できるポイントであれば、そこが人口の少ない村であろうと積極的に店を構えるというのが、この会社の店舗戦略のようだ。
一方のデンナーは、スイスの巨大スーパー網の一翼を担う「ミグロ」の子会社。専門家によれば、ドイツ発祥の他チェーンが「ハードディスカウンター」に含まれるのに対して、比較的そういった様相が薄い「ソフトディスカウンター」と位置付けられている。現在760以上の販売拠点を持つが、その中にはフランチャイズのものも相当含まれる。最近ではチューリッヒを中心に、惣菜・中食類やファストフードを長時間営業で販売する「デンナー・エクスプレス」という形態に注力しているとも言われる。広報責任者であるパロマ・マルティノ氏によれば、2012年中にこの新形態で10ないし20店舗を出店していきたいとの由。アルディと同様、身近な店、さらに言えば日本のコンビニのような「すぐ隣にある店」といった展開を想定しているように見える。
実はもう1社、「リドゥル」というドイツ本拠のチェーンが、2009年からスイス国内で店舗展開しているのだが、こちらの動きは他2社に比べるとかなり鈍い。同社は「スイスでの拡張路線を継続する」とはっきり表明しているのだが、建設中の店の完成時期が遅れたり、完成しても営業開始をしばらく見合わせている(フリブール州マルリー町)といった事例が見られるのも事実で、ドイツ語圏の新聞は噂としてだが、「リドゥルはスイスでの拡大方針を凍結、さらには撤退に転ずることもあり得る」といった内容を報じている。一方『ヴァンキャトルール』紙は様々な情報を総合し、また取材を重ねた結果、今ある物流拠点が現存の75店舗への対応で手一杯となり、新たな拠点を確立しなければならないという状況が、リドゥルの戦略に影響を与えているのではないかという見解を示す。実は新拠点建設計画に向けて、ヌーシャテル湖の岸から近いセヴァ村に既に土地が確保されているのだが、ヌーシャテル州政府がこの土地と高速を直結する道路の建設を進めない限り、拠点が物流上充分に機能しないという思惑があり、計画は中断させられているというのだ。一企業の内情に属する話だけれど、意外にこんなところが、戦略が不透明さをたたえている大きな理由なのかもしれない。
いずれにしてもこうしたディスカウンターの攻勢が増し、しかも景気と経済事情に暗雲が漂う中で、既存の「ミグロ」と「コープ(協同組合スーパー)」の2大ガリバーは守りに必死になっている。クレディ・スイスのアナリスト、ダミアン・クンジ氏の調査によれば、スイス国内の食料品市場は既に飽和状態にあって、人口増加でもない限りこれ以上拡大することはなく、結果としてチェーン間のシェアの分捕り戦が避けられない状況になっている。既存2社の防衛方針はほぼ共通の方向性を示しており、大まかに言って、付加価値の高い商品のラインナップの強化と低価格商品の開発の2種類。それでも挽回は難しく、現にヴォー州内のミグロでは2005年以降、店舗数こそ増やしているものの売上高はわずかながらも減少しているという。これからも突破口の見えないスーパーマーケット市場を舞台に、生き残りを賭けた戦いが続くことになるのだろうか。