歩行者事故減少目指し取り締まり強化

パリでの運転マナーの悪さについては今回の旅行で改めて痛感したので、当ブログの日記(12月30日付)にも少し書いておいた。当方はタクシーに乗っていて他の車の乱暴な運転ぶりを目にすることが多かったわけだが、ともかく車間に無理に割り込む、交差点に突っ込んで立ち往生し、流れを妨害するといった例には事欠かなかった。こういった強引な運転ぶりは対歩行者でも発揮される(?)のがいわば自明の理で、つまり信号機のない横断歩道や交差点で道路を渡ることが、しばしばとても危険になるという状況が明らかに存在する。12月27日付の『ル・パリジャン』パリ市内版は、こうした現状に鑑み、警察がドライバーに対する取り締まりの明確な強化に乗り出すと報じている(La police va sévir aux passages piétons. Le Parisien – le Journal de Paris, 2011.12.27, p.1.)
同市内での歩行者に対する交通安全事情の悪化は、具体的な数字になって現れている。パリ警察庁の調べによれば、2011年1月から11月までの間に、自動車との接触等で怪我をした人は1,009人に上っており、また27人の歩行者がこうした事故で亡くなっている。死亡者の数は前の年より10人も多く(つまり2倍弱)、細かい分析こそないものの大幅に増加していることは確か。真剣に対応を検討すべき状況に立ち至っている。
記者による歩行者に対するインタビューでも、人々が具体的に危険を感じていることがいろいろ明らかになった。二人の孫を連れてモンソー公園を訪れていた62歳のベルナールは、「車が横断歩道で止まらないのは、無作法という以上にものすごく危険なことなんですよ!」と強い口調で語る。公園に来るにはすぐ脇のクールセル大通りを渡らなければならないそうで、孫の手を引き車の流れがほとんど途切れない道を横断するのは、さぞ神経を使うことだろう。一方、80歳のアンヌ−マリは、直前にカーブがあって車から横断歩道が良く見えない場所で、隣人が交通事故に遭ったことがあると語り、ドライバーはもちろん、歩く側も充分気を付けるべきだと感想を述べている。
このような状況を背景として、パリ警視庁では歩行者の道路横断に際する安全を確保するため、厳しい取り締まりを実施することとした。本来、道路交通法の規定では、自動車は横断歩道を渡っている、あるいは渡ろうとしている歩行者に対して必ず道を譲らなければならず、これを守らなかった場合には違反行為となって罰金等が科せられることになっている。今般の方針は、法規遵守を担保するため、街路での抜き打ちによる取り締まりを強化するということ。警察関係者は、「(横断歩道を渡ろうとしている人を見つけた時に)車は減速すればいいなどというのは論外。一時停止が必須です」と釘を刺しており、厳格に適用された場合は摘発者が続々現れることが予想される。
ただ、最近は思わぬところから新たな問題も生じているようだ。12月5日に正式運用が開始されたパリ市内の電気自動車シェアリングサービス「オートリブ」(『OVNI』2012年1月1日号参照)。市民の利便性向上及び公害・渋滞の削減に向けての切り札として期待されているプロジェクトだが、電気自動車の走行音が非常に静かなことが逆に仇となり、その接近に気付かない歩行者にとって脅威になるのではと危惧されているらしい。いずれにしても現状を見る限り、この問題の短期的な解決は難しそうだが、それぞれのドライバーがゆとりを持った運転に心掛け、歩行者も車に注意するという基本に忠実であることによって、少しでも悲惨な事故が減少することを望みたい。