リール近郊に繊維研究開発の拠点を設立

フランス北西部、ベルギー国境にほど近いリールを中心とする地域(ノール=パ・ドゥ・カレー地域圏)が、19世紀以降の繊維産業の発展で一時代を築いたものの、その後の産業構造の変化によって多分に行き詰まりの様相を見せていることは、地理や歴史に詳しい方なら御存知のところ。そんな中、繊維技術の研究開発を軸に、この地の産業をなんとか再興させたいという動きが緒に就きつつある。12月29日付の地方紙『ラ・ヴォア・デュ・ノール』は、今年10月にもオープンするという新しい研究開発拠点の素描、また地元の期待について報じている(L’inauguration du Centre européen des textiles innovants, c’est pour octobre. La Voix du Nord, 2011.12.29, p.9.)。
トゥールコワン、ワットルロー、ルーベの3市の境界付近を中心とし、官民共同で立ち上がりつつある再開発都市地域「リュニオン」。この新都市には目玉施設として、「ヨーロッパ繊維イノベーティブセンター(CETI)」が設置されることになっている。CETIはリュニオン内で最初の新しい建築物であり、2万平方メートルの敷地に合計1万2千平方メートルの2つの建物を持ち、1つはホール、アトリエ、研究施設などを擁し、もう1つは繊維関連産業のサービスセンター的な役割を果たす予定。今年中に、フランスの繊維関係研究のネットワーク組織であるアップ・テックスと、フランス繊維被服研究所(現在はリール市の東南東5キロ、ヴィルヌーヴ・ダスク市に仏北部地域の事務所を構える)とが、CETIの中に拠点を置く予定となっている。
こんにち、単に衣服の原材料というだけでなく、繊維素材はエアバッグ、車のシート、医療用埋め込み器具(インプラント)、救急用具、ソファなど、様々な分野で活用されるようになっている。このような繊維の未来的なあり方を見つめ、その研究開発の拠点になることで、将来にわたっては産業創出の出発地ともなることが、CETIに課せられた壮大な使命である。トゥールコワン市のミシェル−フランソワ・ドゥラノワ市長(リール大都市圏都市部共同体副会長)は、「こうした施設が活動することで、繊維の歴史、繊維産業の歴史が(この地で)終わったわけではないことを示す一つの手段となります」と、その意義を力説する。
10月に予定される開所式の際には、国際会議や関連企業によるビジネス・コンベンション、さらに「未来の繊維」をテーマとする展覧会等の開催も企画されており、またドゥラノワ市長は、今年の終わりまでに、研究設備の一部稼働が始められれば嬉しいとも語っている。もちろん将来は、このハイテクセンターを中心として、実際の繊維生産企業が周辺に進出し、雇用が生み出されることが目標。夢は非常に大きいが、果たしてこのプロジェクト、そこまで無事に辿り着くことができるだろうか。