運転速度通知レーダーに安全効果はありや

自動車の速度違反は警察にとって非常にポピュラーかつ重要な取り締まり対象。日本では、警察官による随時取り締まり(いわゆる「ねずみ取り」)に加え、自動取締設備が主要道路、特にスピードが出やすいところに集中的に設置され、有効に機能するようになっている(というか、それでフラッシュをたかれて切符をきられた人も少なくなかろう)。類似のことはフランスでも当然行われているのだが、やはり所変われば品変わる。12月30日付の地方紙『ラ・ヴォワ・デュ・ノール』は、ノール県等に新たに導入されることになった「速度掲示設備」なるものの趣旨や各方面の反応等を報じている(Radars pédagogiques: ils arrivent à petite vitesse. La Voix du Nord, 2011.12.30, pp.2-3.)。
速度違反自動取締設備が初めて設置されてから10年。これまでは、それぞれの設備の手前1キロぐらいのところに「この先速度取締レーダーあり」という看板が立てられていたが、今般これを改め、通過する自動車がどれだけの速度を出しているか確認できるようにする速度掲示設備を代わりに敷設することになった。なんでも、最初はただ看板を取り外してしまおうという方針(温情主義を改め「抜き打ちフラッシュ」色を強めようという意向によるものか)だったのが、いろいろと反対の声に会い、結局「教育的装置」と呼ばれる速度通知レーダーを立てることで妥協(?)したのだとされる。
12月29日、新しいレーダーの1本目の設置が、リールの西北西約25キロのストラゼール村を走る県道で実施された。雨の中、4名の職人がこれまでの看板とその柱を取り外し、新しいレーダー及び速度表示機を取り付け。機器の調整とテストも含め、3時間もかからず作業は順調に終了した。新しい設備は太陽光エネルギーで動くのだそうで、「バッテリーは全く光がなくても8日間もつようになっています」と、ノール県地域海岸整備局のエンジニア、ドゥニ・プーレ氏は自慢気に話す。なお1本当たりのお値段は約6,000ユーロ。
この設備の面白いのは、走行速度によっては表示がなされないようわざと設定されていること。ストラゼール村のレーダーの場合、制限速度は50キロなのだが、時速30キロ以下、あるいは70キロ以上で走って来る車については表示が出ない。これは特に制限オーバーに関し、猛スピードで走って表示される数字を競うたぐいの暴走族の出現を予防するための策と言われる。
ノール県、そしてノール・パ・ドゥ・カレー地域圏が担当するレベルでは、速度掲示設備の設置(看板との代替)は2012年内いっぱいかけて実現する見通しだが、実は域内の市町村で、先行的に同様の設備を置いているところがいくつかある。ノール県の南東端に近いフルミー町では、既に1980年代末から同種の装置を導入し、2012年半ばにはその数も7台として、町に入ってくる県道には全て敷設する予定。アラン・ベルトー町長は、「相変わらず速度制限の考えを理解しないドライバーもいますが、(速度通知レーダーを置いて以来)スピードに注意する人は増えてきています」と、自らの先進性も含め肯定的に評価している。また、市町村レベルでの取り組みを促進するために、国が1台当たり2,000ユーロ助成するという制度もある。
なおこの記事では、県等が地域圏内に設置している自動取締設備、全47台の場所が地図上に詳しくプロットされている。2012年中にさらに6台増やす予定との由だが、こんなに大っぴらにしたら、フラッシュをかいくぐる悪質ドライバーを助長するだけではないかと思わなくもない。もっとも、パリ市内や同近郊部では、同じような情報はオープンにならないだろう(そもそも数が多すぎて地図上に示すのは無理だろう)から、やはり地方はのどかだとでも評しておくべきか。ただ、ノール・パ・ドゥ・カレー地域圏知事官房長のジャン−クリストフ・ブーヴィエ氏は、「ノール県内で2011年中に交通事故で死亡した80人についてみると、スピードの出し過ぎは36%の事例に関わっており、事故を引き起こす最大のファクターになっています」と述べ、ドライバーに速度抑制を指導していくことがいかに重要かを述べている。看板に替わって導入される速度掲示設備が、本当に「教育的」な役割を果たし、事故防止に結びつくのか、当局はきちんと検証を行っていく必要があるだろう。