自国産キャビアはブランド力アップが目標

世界三大珍味と言えば、フォアグラ、トリュフ、そしてキャビア。このうち前2者についてはフランス産のものをフランス料理で使うというのがある種の王道と言えるだろうが、キャビアカスピ海産が他の追随を許さない。それでも実は、フランス産のキャビアというのも確かにあって、南西部のアキテーヌ地域圏等を中心に、生産拡大や質の向上に向けた努力が続けられている。12月30、31日付の経済紙『レゼコー』は、生産業者に取材しつつ、フランスで作られているこの珍味の現状に迫っている(Le caviar d’Aquitaine en quête de reconnaissance. Les Echos, 2011.12.30-31, p.12.)。
現在フランスで獲れているキャビアが直接遡ることのできる歴史はそれほど長くはない。1990年代、農業環境科学技術研究所がシベリアチョウザメをガロンヌ河に放流して繁殖を目指す試みを開始した。この動きに触発されて、チョウザメを移入して養殖する人々がジロンド県やその北のシャラント・マリティム県で増加。現在では100を超える業者が年間約20トンのキャビアを生産し、約1,400万ユーロもの売上げを出している。世界で生産されているキャビア(養殖チョウザメからのもののみ)は約120トンと推計されており、フランス産のものは量的にはそれなりの存在感を示していることになる。2012年からは、ロシアチョウザメという別の種からもキャビアを獲ることになる予定だ。
大西洋沿いのアルカションからほど近いル・タイク村にあるエステュルジョニエール社(名前は「チョウザメ屋」の意)は、14名の従業員を抱え、年間約4トンのキャビアを生産し、「ペルリータ」というブランドで販売している。ミシェル・ベルトミエ社長が最も力を入れたのは初期投資。100万ユーロ以上を使ってコンクリート製の養殖場(水の濾過、リサイクル装置付き)を建設し、ICチップを付けた約5万匹のチョウザメを常時育てることによって、年間約6千匹ないし7千匹を使ったキャビア生産がようやく可能になった。最低でも7年の養殖が必要というチョウザメは大変手間ひまがかかる魚で、経営が軌道に乗るまでが大変というのもうなずける。
この地域の養殖業者にとっての一番の悩みは、フランス産のキャビア全般に国外でそれほど高い評価が得られておらず、知名度が低いこと。「バエリ」といった優れた評価のブランドも出てきてはいるけれど、ペトロシアン社など有名取引商による認知度はまだ今一つとされる。さらに、カスピ海産はもとより、イタリア、ブルガリア、ドイツなどと競争関係にあるフランスの商品は、最近本格的な養殖を始めた中国ともいずれは競合しなければならない。当面、原産地名称保護制度(IGP)の対象となることで、「アキテーヌキャビア」としてお墨付きとブランド化を図ることが目標となっているが、そのためには業者間の生産プロセスの違い、確保すべき品質(粒の大きさや組成、味などを含む)に関する差異等を克服しなければならず、IGP取得にはまだ数年はかかるという情勢である。
ちなみに経済危機は、この業界にも若干の影を投げかけているらしい。キャビアは商品の性格上、クリスマス休暇の時期に年間の売り上げが集中するわけだが、ベルトミエ社長は、「今年はちょっと変な感じで、注文件数はたくさんあるものの、それぞれがお買い上げになる量が少ないのです。注文主がみなさん慎重になっているようです」と説明し、消費者が買い控えをするのではないかとの懸念が、小売店や取引商から養殖業者にも影響をもたらしているとの見方を示す。長期的、短期的と課題は尽きないながらも、少しずつ環境整備がなされて、フランス産の美味しいキャビアが定着するよう願いたいものだ。