香水はもっと安くなるはずだが

パリでは街に香水のフレグランスが漂っているとか、エールフランスに乗ると特にそんな感じがするとはお決まりのフレーズ(日本の航空会社は醤油の香りといった逆反応もあるようだが)。確かにフランス人は歴史的にも香水を多用してきたと言われるし、今でも世界のトップブランドの多くはこの国に占められている。有名であればあるほど値段も高くなる香水の小瓶、けれど本当に払うに足るだけの価値があるものなのか?12月30日付のベルギー『ラ・リーブル・ベルジック』紙は隣国の視点から、改めてこの素朴な疑問に迫っている(L’ivresse des prix des flacons de parfum. La Libre Belgique, 2011.12.30, pp.20-21.)。
記事が示す統計によれば、フランス人女性の9割、男性の5割が香水を常用している。平均して1人が1年に香水の小瓶を1本分消費するとされ、この消費量は世界一。100mlの小瓶が100ユーロかそれ以上の価格というのだから、かなりの贅沢品であるのは明らかだろう。なぜそれほどまで香水は高いのか、原料の関係でやはり仕方がないのだろうか。
実はある説によれば、香水それ自体に入れ物である小瓶を加えた分の原価は、大規模生産が行われている場合には7ないし8ユーロ程度に過ぎない。また他の説によると、瓶を除いた純然たる香水の部分について言えば、原価はたかだか3ユーロ程度だとされる。つまりそれ以外の大部分は直接消費者が使う物以外のために支払われているということだ。香水それ自体や瓶、さらに包装等に関するデザイン費用、商品販売に係る費用(流通ネットワーク構築等)、卸売業者に対する手数料など、あれやこれや。もちろん必要な経費なのは理解するけれど、それぞれが品物の原価の上に重くのしかかってくる。また、経費の中でも特に大きな割合を占めるのが広告宣伝費。数千万から1億ユーロにも及ぶというこの費用こそ消費者の視点からは節約してほしい(価格への上乗せは止めてほしい)と考えるところだが、マーケット調査を行う国際企業、NDPグループによれば、有名なシャネルの5番が2010年に広告費を切り詰めた(前年比30%減)ところ、途端に売れ行きナンバーワン香水の座をディオールの「ジャドール」に奪われたとされる。各企業にとって宣伝費用は売り上げに直結するものとみなされ、傍から思うほど削減可能ではないようだ。
さらに、上記の各種経費に加えて、各企業がブランド力を自己評価しつつ、儲けを膨らませるといういわゆる「ブランド料」的要素も関わってくる。その上、最近の傾向として指摘されているのが、ある種の「保険」を価格にプラスするという各社の行動。毎年200種もの新しい香水が発売されるというが、その中で生き残るのはごくわずかで、大部分は商品としては失敗に終わり、市場からの撤退を余儀なくされる。そうした失敗をカバーするために、ある社が従来なら相場100ユーロだった香水を105ユーロで売り始め、それに追随する別の社は次に110ユーロで発売といった「悪循環」が生まれているとも言われる。ブランド料と保険料が相まった結果、現在ではついに100ml当たり150ユーロといった商品すら出て来かねない趨勢になっているのだ。
ただ幸いなことに、全ての香水製造・販売会社が同様の戦略を採っているわけでもない。ベルギーのナミュールを本拠地とするギ・デルフォルジュ社は26年前に創業した中規模企業。観光スポットにもなっている城塞に作られたアトリエやギャラリーには、年間10万人がガイドツアーの流れなどで訪れるそうで、同社のオーナー兼調香師のギ・デルフォルジュ氏は「これ(観光客らのギャラリーへの来訪)が私どもの主要な広告手段になっています」と述べている。自然素材を中心にした原料で小規模生産を行っているため、経費はいわゆるブランド香水の2倍。他の経費をできるだけ減らすため、在庫管理や流通といった業務まで全て社内で賄い、また全ての(種類の異なる)香水の小瓶を同じ形にする(ある程度まとめて発注しないと安く作れないため)など多々工夫をこらしており、結果、100mlの小瓶の価格は41ユーロと、ブランド製品の半額以下に抑えられている。
本記事にはもちろん、ベルギー紙として自国商品を称揚しようという意図が明らかに見て取れるが、価格構造などあまり表に出て来ない香水について、実態をそれなりに示す内容になっているのは確か。フランスの香水のブランド力には間違いなく侮れないものがあるが、値段の高さがそれに釣りあっているかどうか。その答えはそれぞれの消費者の判断の積み重ねが決めていくことになるのだろう。