文化系商品チェーン店FNACの経営戦略に矛盾あり?

先日のパリ滞在時にも2回もその店舗を訪ねてしまった(12月27日付、30日付当ブログ参照)、本やCD等のカルチャー系ソフト、さらに音響機器や映像機器等を販売する大型チェーン店FNAC(フナック)。日本だけでなくフランスでも、ネット販売やダウンロード課金等が隆盛している業界での経営なだけに、大きな店を多数構えるビジネスモデルには多々難しい点があるだろうということは容易に想像できるが、ここにきて案の定、売り上げの低迷からリストラ計画の展開へという動きが生じている。1月17日付の『ル・モンド』紙は、同チェーンを巡る動向を、多少の疑問と共に明らかにしている(Crise, nouvelle concurrence… La Fnac doit s’adapter. Le Monde, 2012.1.17, p.16.)。
非食品系の大規模流通グループであるPPR(グッチ、イヴ・サン・ローランなどが所属)の傘下にあり、国外も含めて約1万7千人の従業員を抱えるFNAC。1月13日、同社のアレクサンドル・ボンパール社長が社員代表に対し、人員削減を含む新たな緊縮策の実施を表明したことから、一気に波紋が広がった。人事やコミュニケーションといった総務部門を中心に510人(フランス国内では310人)を削減し、そのため希望退職を募集する、店舗の地代や各種委託費の徹底した見直し・再交渉等による一般管理費の縮減、さらに給与の部分的減額等の措置も併せて実施し、全体で年額8,000万ユーロの費用カットを実現したいというのが本緊縮策の目的。同社のリストラは2009年にも実施されているが、その時の削減費用は3,500万ユーロだったので、今回の提案はごく短期間にさらにシビアな縮減を目指さざるを得なくなったものと解さざるを得ない。
確かにFNACの業績には暗雲が漂っている。社全体の2011年の売上高は、前年比で3.2%減少。ボンパール社長は、「利ザヤの確保に猛烈な下向き圧力がかかり、また費用が構造的に増大していることから、年間の業務収入は半分にまで減っています」とも述べる。もちろんその背景には経済危機とその反映である消費の停滞があり、例えば昨年の電子機器の売り上げは前の年と比較して15%もの減となっている。しかし一方で、FNACが主に扱っている商品群(音楽ソフト等)が抱える固有の問題も無視すべきでない。ある業界通(匿名)は、「過去10年間、(FNACを取り巻く)環境は大きく変化したのに、FNACというブランドはほとんど変化しなかった」と喝破している。
一方で不思議なのは、6か月前に発表された新経営戦略はそのまま実施するとしていること。新しい消費トレンドへの適応を主な目標に掲げた新戦略「FNAC2015」は、利用者の目線に立った店舗の再構成(例えばCD、デジタルメディアプレイヤー、ヘッドフォンなどを近くに配置すること)、自社サイトを使った新サービスの展開(ネットで予約した商品の店舗引き取りなど)、さらに店舗網の拡張(今後5年間に新たに30店舗を新設、ミニショップ形式の新展開など)が謳われていて、明らかに拡張傾向が見て取れる。これと今回の緊縮策は、どうにも逆方向を示しているようにしか思えない。同社の組合関係者は、「FNAC2015は船出の時点でつまづきました。問題解決は人減らしによってなされるものではありません」と会社の方針を批判している。
ボンパール社長は、昨秋新たに自社販売を開始したカナダ企業コボ社(現在は楽天グループに所属)の電子読書端末が5万台も売れたこと、昨年6月に電話通信企業SFR社とパートナー契約を結んだことから、携帯電話の売れ行きが好調なことなどを挙げて、会社の未来は開けていると主張する。しかしそうであるなら、何故人員削減まで射程に入れるリストラ案を、しかも方向性の異なる事業戦略と並行で進めようとするのか。記事のトーンに依拠しているとは言え、経営方針全般に歪みが生じているように見えるのが、「行きつけの店」だけに心配なところである。