自然派ファストフードなんてあり得るのか

食生活に対するこだわりが何処でも話題になる今日この頃。フランスで「自然派」と言われる食品類が注目され、また食品製造業において「自然派」であることが格好のセールスポイントになっていることについては以前にも触れた(例えば2011年12月28日付当ブログ参照)が、その勢いはとどまるところを知らないようだ。健康問題を扱う一般向け月刊誌『トップ・サンテ』の1月号は、ファストフード界をも確実に巻き込みつつある自然派ブームの現状について説明している(Le fast-food bio, c’est mieux? Top Santé, 2012.1, pp.130-131.)。
手早く、美味しく、しかも健康に良いものを食べたい。そんな消費者の欲求に応える自然派ファストフード店なるものは、フランスで2001年頃から出現してきていたが、その後10年が経つ昨今では、店の種類、メニューともかなり豊富になっている。コンセプトも多様化しつつあり、自然派の原材料を中心に使用する店というだけでなく、栄養バランスを目指す店、ヴェジタリアン向けの商品を充実させた店、エコロジーを追求する店などが拡大中。さらにそうしたコンセプトに加え、とりわけスタイリッシュであることを自らに課す店舗も増えてきている。
例えばパリ2区、証券取引所の近くに店を構える「イート・ミー」は、栄養学・内分泌学の専門家、ピエール・アザム博士にメニューの監修を依頼し、「均衡が取れ、しかもクリエイティブなアイテム」の提供に力を入れている。「普通のハンバーガーに使われるパンは、体内の血糖値を急激に上昇させるような糖質を含んでいるため、満腹感を感じさせるのが遅くなる(その結果食べ過ぎになりがちである)」というアザム博士の指摘を汲んで、この店では全粒粉のパンを使用するといった具合だ。
00年代初頭から営業を開始した各企業は、それぞれの方針に従って事業を展開しつつあり、また店舗数も(それほどの勢いはないにせよ)増加しつつある。もっぱらパリ周辺で17店舗を運営中の「コジャン」の場合、亜麻の種が入ったパニーニ風の自然派パンに、トマトとモッツァレラチーズを挟んだサンドウィッチ、グルテン穀物内のタンパク質)フリーのブラウニー、麦草のジュース(青汁のようなものか?)などが売れ筋。フランス国内14店をはじめ近隣国に出店している「エクスキ」は、全てのパンに加え、牛乳、ヨーグルト、ジャムなどで自然派食品を採用しており、また原料構成、栄養素やカロリー量等を徹底的に情報公開している。また中東や東南アジアにも店を開いている「バーツ」では、自然派パンのサンドウィッチ等は勿論だが、「タイ風」や「日本風」のサラダ(中に麺を入れ、わさびやスパイシーソースなどでエキゾチックな雰囲気を醸し出している)などに独自性が見られる。
ただ、こうした企業は相対的にはまだ少数派で、メジャーなファストフードチェーンでは自然派志向があるとしても一部にとどまる。フランスブランドのハンバーガー店クイックでは、2010年にようやく自然派のサンドウィッチ、りんごジュース、そしてヨーグルトが登場した。一方マクドナルドでは、自然派と言える商品は飲むヨーグルトとりんごジュースに限定されている。同社は地産地消型の原料調達に努めたり、廃棄物の管理を適正化するなど、エコロジカルな側面に力を入れているということで、企業としての姿勢を示したい意向のようだ。
確かに、できるだけ体にやさしいものが食べたいという人の気持ちは分からなくはない。ただ、ファストフードにおいてそうした気持ちを受け止めるというのは、やはり一種のトレンド指向であり、消費社会の流れを部分的に構成しているに過ぎないのではという感が強い。かつてのように、ゆっくり時間を取って昼食や夕食を味わうことは、フランスですら成り立ちにくくなっているのかもしれないが、本当に体のことを考えたいなら、じっくり料理してじっくり食べる、そのことからしか始まらないのではないだろうか。