格安キャリア、御愛顧感謝フライトを実施

当ブログで欧州の格安航空会社、イージージェットを取り上げるのは3回目になる。特に優先して取り上げているつもりはないのだが、ここでフランス語圏スイスの情報を紹介しようとする際に、同社関係の話題が目立つ形でメディアに出ていることが多く、結果としてピックアップしているという感じだ(スイスの空におけるイージージェットの存在感が非常に増してきていることも一因)。過去2回は不祥事関係(2010年10月2日付−運行の乱れ多発、2011年9月6日付−サイトでの不透明な運賃表示)だったが、今回は趣が一変。1月26日付の『トリビューン・ドゥ・ジュネーブ』紙にて、同社のスイスでの利用客5,000万人突破を記念する特別フライトを取材し、関係者インタビューを行っている記事を見てみることにしたい(EasyJet drague les voyageurs d’affaires. Tribune de Genève, 2012.1.26, p.23.)。
1月24日、ジュネーブ・コワントラン空港からこの記念便に乗り込んだのは、多数の応募から見事当選した30人程度の一般客、そしてメディアの取材陣。行先を告げない「ミステリーツアー」という企画で、実際はバーゼル空港でドイツ語圏の搭乗者を迎えた後、ノンストップで地中海を越える周遊飛行を楽しんだ。サプライズは数々の有名人ゲスト。2006年の準ミス・スイスで、つい最近ではF1レーサー、フェルナンド・アロンソとの熱愛を報じられているゼニア・チュミチェヴァ、ローザンヌ出身で弱冠20歳のシンガーソングライター、バスティアン・バケル、スイス・ヴァレー州出身のコメディアン、フレデリック・ルクロジオが同乗し、パフォーマンスを機内披露するなどして乗客を沸かせる。機内食ではミシュラン2つ星のレストラン「ル・セール」のオーナーシェフ、カルロ・クリシ氏の料理が提供された。
楽しい気分が横溢する機内で、記者は同乗しているイージージェット社北部ヨーロッパ地域担当部長、トーマス・ハーヘンセン氏にインタビューした。このハーヘンセン氏、2010年には運航ダイヤ不安定問題の矢面に立たされ、それは大変なことだった(2010年10月2日付ブログ参照)が、現在も同じ職に留まり、スイスでの乗客動向も順調に推移しているということで、このイベントでも自信に満ちた雰囲気を漂わせている。
記者はそれでもしつこく、「(サービスで)スイス人に納得してもらうには、時間が正確なことが一番重要かと思いますが」と食い下がるけれど、ハーヘンセン部長は「重点を置くべきは時間の正確さを含めて複数あります」と述べ、具体的にはイージージェットがスイスで非常に豊富な路線網を確保していること(ジュネーブからは55都市に就航し、パリ、ロンドン、ベルリンに日帰りが可能)などを挙げる余裕を見せる。しかも、「直近の3か月間で見ると、80%以上のスイス関係便が定時に飛んでいました」との由。「80%以上」とはまだそれほど高い数値と言えないような気もするが、まあそれは措いておこう。
イージージェット社のスイス国内の展開として、現在最も力を入れているのはビジネス客の獲得。今のところ、18%がビジネス関係の利用者だが、これを20%以上に引き上げたいとする。また、ジュネーブ及びバーゼルを発着する航空機の台数を2機増強したことに伴い、ジュネーブでの業務ポストを一挙に78人分も増員した。さらに旅行会社との提携強化や企業訪問など、販売・営業活動の強化・改善にも努めている。
なお、近年の欧州経済の低迷は、格安航空会社にとっては逆にプラスに働いており、外部環境が皮肉な形で同社の経営を後押ししている状況。ハーヘンセン部長は、「2008年以降、(自社に限らず)格安航空会社に乗客が流れてくる傾向が見られます。イージージェットでは2011年に、100万人以上のビジネス客を記録しました」と発言し、好調ぶりをアピールするが、それでも今後は石油価格の高騰等も見越し、当面のところ機体の新規調達を抑えるなど慎重経営を進めるという。ただそうは言いつつも、2012年にスイスで引き続き5ないし10%の乗客増を目指す(ちなみに2011年は22%増)というのだから、乗客獲得への自信には揺らぎがないようだ。
経済危機を背景に伸びる企業も因果なものだとは思うが、時代に即したビジネスモデルとの評価になるのだろう。ただ少なくとも、安全運航にはくれぐれも努めていただきたいと切に願う。