トリュフの収穫増加、科学が後押し

世界三大珍味のうち、キャビアについては当ブログで最近扱ったばかり(2月11日付参照)だが、今日はトリュフの話題。当方正直に言って、その味覚上の価値が心底わかっているとは言い難いが、独特の収穫法と相まって高級食材としての地位は不動のものだろう。一般向け総合月刊誌『サ・マンテレス』1月号では、フランスにおけるトリュフ産出の歴史的変遷、また科学的知見を導入した現在の産出動向などについてレポートを掲載している(Comment les chercheurs sauvent la truffe noire. Ça m’intéresse, 2012.1, pp.70-71.)。
トリュフ栽培は、グルメブームを背景にそれを珍重する向きが増えてきているにもかかわらず、近年までずっと下降線を辿ってきた。20世紀初頭の段階では1,000トンほどの収穫を誇っていたのが、その後の工業発展、人口の都市化に基づく農業従事者の減少の影響を受けて激減。1990年代には20トン以下に落ち込んだ。その後多少回復して2010年には32トン、しかし一方で需要は250トンほどに上ると見られ、その差は主として輸入によりカバーしているものの、需給アンバランスのため価格の急騰を招いている。現在、小売市場での値段は1キログラム当たり800ユーロ。もとから珍味であったことに違いはないが、その度合いに拍車がかかり、特にプロヴァンス地方など南部を主とする国産のものは、ある意味で「高値の花」となってしまっている。
トリュフは地下に埋まっているのを(豚や犬の助けを借りて)突きとめ掘り出すというのが産出の基本であるため、栽培、増殖といった考え方は取りにくいように一見思えるが、実は生育過程の一部分にせよ、人手を介してトリュフを育てる、または生育しやすくするという考え方は定着している。その起源も古く、19世紀初めにヴォークリューズ県で農業を営んでいたジョセフ・タロン氏が、トリュフが良く採れることで知られるオークの木から集めたどんぐり(種子)をその木の根の間に埋め、新しいオークの木を育てたところ、そこからトリュフが採取できることが発見された。タロン氏のアイディアに倣う形でトリュフ生育のきっかけを人為的に与える作業がすぐ農民たちに広まり、20世紀初頭の生産量黄金時代を支える大きな要素になったと考えられる。
その後トリュフ増殖への取り組みが再び盛んになったのは1960年代以降。国立農学研究所(INRA)の科学者が、危機に瀕していたトリュフ生産を再興するための研究を開始した。彼らは10年ほどの歳月をかけ、トリュフを砕いて腐植土に混ぜ、そこにどんぐりを埋めることで、トリュフから出る胞子がオークの根と融合し、新しいトリュフの基となる菌根(根に寄生する菌)ができることを確認した。そして、こうしてできたオークの苗を植え替えると、その4年後にトリュフの収獲が可能になったのである。タロン氏が偶然発見した方法に科学的知見が加えられたとでも言おうか。INRAが作り出すトリュフ収獲用のオークの苗は、フランス国内に限らずヨーロッパ諸国や米国に対し、1本当たり10ユーロないし30ユーロ程度で販売されてきており、これが世界のトリュフを復興させる大きな契機となった。フランスでは毎年30万本の苗が植えられ、そこから産出されるトリュフは総生産量の90%を占めるようになっている(残りの10%がいわゆる野生のトリュフ)。
こうしてある程度着実な生産方法が出現しているにもかかわらず、引き続きトリュフの供給が需要を大きく下回っている理由について、INRA所属の研究者であるジェラール・シュヴァリエ氏は、たとえトリュフ産出の見込みが高いオークの苗木を植えたとしても、実際にそこからどのように収獲されるかは不確実であり、「同じように植え替えを実施したにもかかわらず、1年に数十グラムしかトリュフが獲れないのもあれば、キロ単位で確保できるのもあります。全ては遺伝子に拠るようです」と説明する。こうした状況を踏まえ、INRAでは今後、高収獲苗木のクローン開発を進める方針だが、これは一方で、特定の病気によって集中的に被害を受ける苗木ばかりをつくることになりかねないとも見られ、まだ課題はつきないようだ。
いずれにせよ、フランスでトリュフをもっとたくさん作ろうという科学的な営みが今後も進展するのは歓迎されるが、仮に量産時代が到来した場合、有難味がなくなるといった寂しさも生じるのかもしれない。