ルソーの生地が記念館兼文学館に

18世紀の哲学者ジャン=ジャック・ルソージュネーブで幼少期・青年期を過ごし、また後年も一種の亡命のような形でスイスに戻った期間があることはよく知られている。哲学者たちの間でジュネーブは、ルソーの生地として認識されていると言い換えてもよいかもしれない。これまでも彼が住んでいたアパートは、記念施設としてこの近代思想界の巨匠に関心を持つ多くの人々を迎えてきたが、生誕300年を記念する今年になって、新たな展開を目指す動きが緒に就きつつある。1月26日付の『トリビューン・ドゥ・ジュネーブ』紙は、関係団体が力を合わせてスタートさせつつあるこの新たなプロジェクトについて報じている(Le philosophe et la littérature rassemblés sous le même toit. Tribune de Geneve, 2012.1.26, p.26.)。
新プロジェクトのキックオフとして2月1日にオープンするのは、これまで「エスパス・ルソー」として知られてきた哲学者の記念館のコンセプトを変更した「ルソー・文学センター」。エスパス・ルソー協会、ジュネーブ文学館協会(MLG)、ジュネーブ旧市街住民協議会の共同事業という位置付けであり、建物の所有者であるジュネーブ州政府の支援を得ている他、ジュネーブ市の協力も取り付けた。名前が示すように、単にルソーを顕彰するのではなく、ルソーとの関連も意識しつつも、フランス語圏スイスの文学に関する展示やイベントを行うというのが施設の新たな目的となる。MLGの創設メンバーであるシルヴィアンヌ・デュピュイ氏は、「(このセンターの開設により)フランス語圏スイスの文学界は、その存在を広く知らしめ、また作家たちが相互に交流するための拠点を持つことになりました」と一連の取組みを歓迎する。
今のところ、センターは1階・2階の2フロア(そのうち2階がこれまでエスパス・ルソーとして一般公開されてきた)。将来はこれを5フロアまで広げ、ガラスのエレベーターなどを採用することで、館内に光や植物の緑などをふんだんに取り入れようといった意欲的な提案もなされている。実は、こうした改築に必要と見積もられている500万スイスフラン(約4億2,500万円)のうち、4分の3の資金はまだ調達できていないと言う。それでも2014年の末には完全開館を予定とのことなので、何らかのあてはあるということなのだろうけれど。
ルソーの記念館と現代文学館、共通要素があるような、そうでもないような二つのものがたまたま共存しているという感は否めないように思うが、(政治的、あるいは経済的な)妥協の産物であったとしても、運営者としては有機的な事業展開にそれなりの自信を持っているのだろう。文学者が参加するシンポジウムや映画上映なども各種予定されているようなので、今後のジュネーブ滞在・観光時の注目スポットとしてチェックしておくとよいのではないか。