リキュール復権を目指して工夫あれこれ

本格的な食事の場合、食前酒があれば食後酒もあるというのが一つのパターンではあるのだが、前者はともかく後者には手が延びにくいというのが最近の一般的な傾向ではないか。そしてそんなトレンドをうけて、(バーなどで小粋に飲むのは別にすると)主に食後酒として飲まれてきたある種のリキュールについては、そろそろ抜本的に新しい消費のスタイルを模索すべき時期に来ているように思われる。2月19日付の『ル・ジュルナル・デュ・ディマンシュ』紙では、コアントローレミーマルタン(コニャックの商品名)を特に取り上げて、新たな顧客獲得のための新たな動きについて伝えている(Les classiques revisités. Le Journal du Dimanche, 2012.2.19, p.41.)。
実は、今回取り上げる2種のリキュールは、1989年の企業提携により同じ会社集団(レミーコアントロー・グループ)の傘下に属している。それはさておき、まずはコアントローの話から。ロワール地方発祥でホワイトキュラソーの一種であるこの酒について、本格的に新しい動きがスタートしたのは5年前、鮮やかさを持つバラ色が印象的な「コアントロポリタン」というカクテルが開発された時点に遡る。コアントロー社のジュスタン・ウェストン社長は、「(新カクテルの導入の背景には)この酒を食後だけでなく食前にも飲んでもらえるようにするという至上命題がありました」と説明し、また「こうした方針は成功しました。下降気味だった販売動向は増加に転じ、年5%もの売り上げ増をもたらしています」とも述べる。さらにこうした過程では、新たにイメージキャラクターとして起用されたモデルでダンサー、ディタ・フォン・ティースの力に拠るところも大きかったようだ。
一方のレミーマルタンは、これもフランスはシャラント県で生まれたコニャックの伝統に基づく有名ブランドだが、北米やアジアと比べてヨーロッパでの消費沈滞に悩んでいた。その背景には、(現代的に見れば)少し強過ぎる風味、また古びた趣といったものが作用していたと考えられる。そして、こうした状態を脱却するために、数年前から新しいVSOPを投入する動きが進められてきた。リキュールの製造に直接携わるセラー長であるピエレット・トリシェ氏の説明によれば、今まで以上に樽の中での熟成を長期化し、原料であるブランデーをゆっくりと調和させていくことで、まろやかな舌触りやほんのりしたヴァニラの香りなどを実現することができたという。さらに瓶やラベル等のデザインにも工夫をこらして、イメージの全体的な転換を図った。トリシェ氏は、「新しいVSOPは、食事の間に料理と合わせていただくもよし、カクテルをつくるもよし、さらに食前酒としても味わってほしいと思います」と自信を持って語る。レミー・サワー(ショウガを用いたカクテル)など新たなレシピを紹介するといった普及活動も行っているようだ。
つまり、コアントローレミーマルタンも、新しいカクテルの開発及び宣伝などにより、食後酒以外の用途を拡大しようとしている点では同じなのだが、コアントローでは現在、さらに新たな企画が進行中。パリ2区、ヴァンドーム広場の近くに、「コアントロープリヴェ」という期間限定(2月28日から4月26日まで)のバーをオープンさせた。デザインはオートクチュール界でも知られるモード・クリエイター、アレクシス・マビーユ氏が担当し、1920年アメリカ(禁酒法時代)の隠れ家酒場を彷彿とさせるような、ちょっと秘密めいた、しかし温かく居心地のよい空間を演出している。2か月限定というのがちょっともったいないぐらいだが、そこがまた人々に注目される点なのだろう。フランス発祥のリキュール、もっと暮らしの中に、アーバンライフに溶け込んでいくようになれば、そこから新たな楽しみも生まれてくるのではないだろうか。