急激に進化するランニング用品に注目

スポーツや習い事など、始める前にまず「形から入ってしまう」というケースは意外に多いもの。一式揃えたあげく数回しか使わなければ宝の持ち腐れだが、ウェアや道具などをきちんと整えることで、ようやくやる気が湧いてくる場合もあるだろうから、どちらとも決めつけられない。しかも最近は、技術の進化によって今までよりはるかに快適に使える用具が急増しているという。3月6日付のスイス『ル・マタン』紙は、開発著しい初中級ランナー向けのグッズあれこれと、それを利用するランナーたちをめぐるトレンドを紹介している(Du running, oui, mais high-tech! Le Matin, 2012.3.6, pp.24-25.)。
現在、スイスのランニング(現在は「ジョギング」よりも「ランニング」の方が用語としてポピュラーらしい)人口は約140万人。全人口が約780万人なので、18%の人が走って日々をエンジョイしているということになる(ちょっと多過ぎるような気もするけれど)。ローザンヌの西郊、エキュブラン市にあるランニング用品専門店「プラネット・アンデュランス」の創設者で、自らも10kmロードレースの常連であるサミュエル・ロヴェイ氏は、「(ランニングは)いつでもどこでも出来て、35分から40分程度の運動を週に3回するだけでも効果が出るスポーツです」と(基本的なことだが)改めて説明して、ランニングの定着ぶりをアピールしている。
しかもランニング関連の靴やウェアなどは、ここ数年で格段に質的向上を見せている。わずか数年前だったら、古びたショートパンツにTシャツ、さらにバスケットシューズなどといった格好で走る人が普通だったのに、たちまちそんな服装が極端な時代遅れになってしまうほどに、新商品の開発が進んでいるのだ。ロヴェイ氏は、「ハイテク要素を取り入れた新商品を使うと、ランニングがより楽しくなるだけでなく、走った後の疲れも減少し、スコアもよくなる傾向があります」とまで述べて(当然商売絡みだが)、最近の開発動向を絶賛している。
それでは具体例を見てみよう。パンツでは吸汗機能や体温保持機能が強化され、また着圧の適正化によって疲労の軽減が図られるようになっている。現在一番の売れ筋はメリノウールを素材とするもので、冬暖かく夏は涼しいという特性あり。靴下には靴との摩擦を防ぐために補強がなされ、さらに靴内での姿勢を良くしたり、足元に溜まりやすい血液を押し上げ、疲れを防ぐ機能などが導入されている。腕時計は著しく高機能化し、心拍数測定、GPSを用いた行程記録を行うほか、運動量等のデータをインターネット経由でパソコンに送付することも可能だ。そしてTシャツでは筋肉に適切な圧力をかけることで、発汗を制御したり走行姿勢を矯正するなどの効果が期待できる。
ちょっと興味深いのが、ランニングシューズをめぐる昨今のトレンド。これまでは衝撃吸収型の靴が主流だったのが、近年方向性が真逆になり、裸足感覚を特徴とする5本指シューズが急速に普及している。ただこれら二種類のシューズには一長一短があるとも見られており、要は個々のランナーのレベル等に負うところも大きいようだ。
ただ、新商品で全てを整えようとすると、相当の費用がかかることも確か。1,000ないし1,200スイスフラン(約8万5,000円〜約10万2,000円)ぐらいのレベルにはすぐ達してしまうらしく、前述のロヴェイ氏も、「専門家のアドバイスを得ながら、足の形や走り方に合ったシューズを選び、それから段々と他の用品を揃えるのが普通です」とコメントしており、さらに、走る姿勢を直してカロリーを多く消費できるようにするため、スポーツ医療センターで診断(健康状態の全般的チェックを含む)を受けることを勧めている。どうせ走るなら効率的かつ安全に走りたいもの。そのためには道具よりも先に注意すべき点がある、ということなのだろうか。