カルフールの新ストア・ブランド、早くも行き詰まり

フランスを代表するスーパーマーケットチェーンで、欧州を中心に各国で事業を展開し、売り上げで世界第2位の規模を誇るカルフールについては、昨年5月8日の当ブログで大きく扱ったばかり。従来推進してきている「ハイパーマーケット」という業態を一部見直すために、「カルフール・プラネット」という新たなストア・ブランドを導入し、フロアコンセプトも見直すというような内容だった。ところがそれから1年もたたないうちに、同社は店舗戦略の再度見直しを迫られる状況になってしまっている。3月9日付『ル・フィガロ』紙は、「プラネット」の新規出店中止を報じるとともに、展開の定まらないカルフールの経営事情について検討している(Carrefour stoppe le déploiement de son concept d’hyper Planet. Le Figaro, 2012.3.9, p.22.)。
たった1年で、熟考を重ね構築したはずだった店舗形態の実質的放棄を発表せざるを得なくなった同社のラース・オロフソン社長。4月初旬の退任を控えて記者会見を行い、既に開店しているプラネットの業績が期待していたレベルに達しなかったとして、「移行が決定している11店舗を除き、さらなる業態変更(普通のカルフールからプラネットへ)は実施しません」と明言した。現在あるプラネット店での昨年の売り上げは前年比で1.4%減となり、通常のカルフールの5.4%減よりはましだったものの、経営陣の予想を大きく下回っている。またこうした値を背景に、世界全体のカルフールの売上高は(新興国の成長市場を含めても)0.9%増の813億ユーロに留まり、業務収益に至っては前年と比べて19.2%も減少している(22億ユーロ)。3年前にネスレグループのマーケティング担当執行役からカルフールに転じ、業績の回復を一身に担っていたオロフソン社長は「コンセプトを打ち出した時点から、経済環境が劇的に変化してしまった」ことを、プラネットが伸びなかったことの理由に挙げているが、残念ながらありうべき経済変動を織り込めなかった以上、コンセプト自体が失敗に終わったという評価は避けられないのではないか。
カルフール・プラネット」は、従来のハイパーマーケットと比べ、フロア構成に工夫をこらし、一部の商品について専門店的雰囲気を与えることを目標にしていた。店によっては、フロアの一部をパートナー企業(ヴァージンなど)の運営に任せる思い切った踏み込みもしている。コンセプトの一部は今後も活用されるようだが、いずれにしても「2013年までに245店舗をプラネットに転換、255店舗でその要素の一部を取り入れる」としていた従来方針が覆ったことの意味は非常に大きい。これまでの業態転換に要した投資額等も考慮すると、カルフールが被った痛手は相当のものと考えられる。
4月2日から新しい社長として着任するジョルジュ・プラッサ氏は、これまでカジノ・グループ(中型スーパーチェーンであるフランプリ等を傘下に置く)やヴィヴァルト・グループ(衣料販売)でキャリアを積んできた実力者。しかし着任早々、上記で示したような苦境を脱出すべく、抜本的な取り組みを早急に進めることが求められている。とりわけ、効率的な設備投資と、財務状況の改善は喫緊の課題だろう。同社の財務責任者であるピエール−ジャン・シヴィニョン氏は、中国、ブラジル、インドネシアといった新興市場で重点的に投資を確保する意向を示すとともに、配当の引き下げ(前年1株当たり1.08ユーロだったところを0.52ユーロへ)及び株式無償割り当てによる配当の一部代替等を検討するとしている。「我々が行うのは、CAC40(ユーロネクスト・パリに上場する代表的40企業)銘柄の平均配当性向(41%)に我が社を近づけようということに過ぎません。今回の引き下げによって、これまでの配当性向60%がようやく45%になります」とシヴィニョン氏は説明するが、株主の受ける衝撃はかなり大きいものであることも容易に予想できる。
その他、カルフールでは、これまで比較的なおざりになっていたドライブスルー型サービス(インターネットで注文した品物を、車から降りずに受け取る販売手法)を拡大し、現在実施中の30店舗から今年末には150ないし200店舗にしたいとしている。ルクレールやシステムUといった他チェーンからは完全に遅れを取ってしまっているが、こうした地道なサービスが、意外にもカルフールの業容回復に大きな貢献をなすこともあり得るのかもしれない。