バーゼルで若き時期のルノワール展を開催中

ドイツ、フランスとスイスが接する交通の要衝であるだけでなく、実は美術の都としても有名なバーゼル。大規模なアートフェアが毎年6月に開催されるほか、世界最古の公共美術館ともいわれるバーゼル市立美術館が充実したコレクションを有しており、さらにバイエラー財団美術館、ティンゲリー美術館といった私立ギャラリーの活動も盛んだ(『クーリエ・ジャポン』2009年9月号参照)。4月3日付の『ル・タン』紙は、そのバーゼル市立美術館で開催されているルノワール展を取り上げ、その特徴などについて報じている(Renoir, premiers émois picturaux. Le Temps, 2012.4.3, p.26.)
スイスで大規模なルノワール展が開催されるのは1943年以来2度目であり、今回は特にこの画家の初期の業績がテーマとなっている。時期としては、彼が初めてフランス王立絵画・彫刻アカデミー主催のサロン(官展)に出品した1864年から、いわゆる印象派展への3度の参加を経て、再度サロンへの出展に回帰する1870年代後半まで、すなわちルノワール23歳から30代後半までの作品が対象。印象派を志向しつつ他方で古典的手法からも多くを学んだ結果、黒・白・灰色を使いこなす暗い色調を特徴としたものが多く見られ、また彼の出自であるブルジョワ界と、友人との関係の中で出会うボヘミアン的な生活スタイルの間を彷徨うなかで生まれてきたある種の意識が、作品の多くに反映されている。
今回の展覧会に出されている重要な作品群としては、友人や先輩である画家たちの肖像画が第一に挙げられるだろう。同居して画業の苦楽を共にし、後に晋仏戦争で戦死するフレデリック・バジール、ダンディズムを前面に押し出した姿を肖像に残すアルフレッド・シスレーなどをモデルにした絵が展示されている。少し後年にはなるが、ルノワールをパリ郊外、アルジャントゥイユの自邸に招いたクロード・モネを描いた作品も、彼の画風の変遷を辿る上で重要な位置を占める。
とりわけ注目すべきは、リーズ・トレオをモチーフに描いた「庭園の女」、「インコに触れる女」といった何枚かの作品。同輩画家ジュール・ル・クールの恋愛相手の妹だったリーズは、近年の一部の研究によると1865年から1872年までの間、ルノワールと隠れた恋人関係にあり、2人の子どもを儲けさえしたという。うち男児は幼くして亡くなったが、女児ジャンヌはトレオの姓を名乗り、ルノワールも認知こそしなかったものの後年までこの実子との交流を保ったとされる。
他に印象派的な特徴を顕著に示した「パラソルの女」など、数々の作品が一堂に会した今回の特別展は、8月12日まで開催されている。この春夏にバーゼルを訪れる機会があるなら、まさに見逃せないイベントと言えるのではないだろうか。