旅行会社のリストラにみる時代の変化

消費者向けサービスを提供するどの業界でも、ニーズを敏感に捉えそれを先んずるか、せめて出遅れないようにしなければ、大企業であっても業容の停滞は必至。日本の旅行業界を例に取れば、HISなどが順調にシェアを伸ばしている(とみられる)一方、そのあおりで苦戦中の会社もあると察せられる。フランスでもほぼ似たような状況があるようで、5月25日付の『ラ・クロワ』紙は、1980年代に全盛を誇った旅行大手がリストラを迫られている事情について詳しく報じている(Le lent déclin de Nouvelles Frontières. La Croix, 2012.5.25, p.15.)。
記事で話題になっているのは、1967年創業のヌーヴェル・フロンティエール(NF)社。一般大衆層を中心にリーズナブルな価格で旅行商品を提供することによって強みを発揮し、旅行の大衆化を牽引したとも言われている。またお決まりのように関連分野へ徐々に事業を拡大してきており、アフリカやカリブ諸島への定期便を有するコルセール社、リゾートホテルチェーンのパラディアンなどが傘下で活動している。
NF社は2000年代の初め、ドイツに拠点を置き旅行業を主体とする企業集団、TUIグループに買収されたが、今回はこのTUIのフランス子会社(2011年設立)が厳しいリストラの対象となっている。全職員約2,700人のところ、希望退職を中心として484人を削減する計画が組まれており、経営側は6月にも退職者募集したい意向とされる。2月に始まった組合や従業員の代表を含む中央企業委員会での議論は終了しており、次のステップに進む環境は整ったところ。そしてなかでも1,500人(全体の55%)を擁するNF社は、それに見合った退職者を捻出しなければならず、大規模な人減らしは必至と考えられる。経営側は、勤続1年に対し1.4か月分(最初の10年については1.5か月分)の給与相当額に加え、一律1万5,000ユーロを退職手当として支払う意向らしいが、社会全体を雇用不安が覆っている中で、喜んで募集に応じる社員がどれだけいるかは甚だ不透明だ。
NF社の立場からすれば、TUIグループに吸収されたためこんな憂き目に遭うのだとの気持ちもあるかもしれない。しかしこの記事では、NF社自身の業容が近年非常に落ち込んでおり、年々巨額の損失を出していることに大方の問題があると指摘している。旅行業関係のコンサル事務所、プロツーリスム社のディディエ・アリノ氏は、「NF社は(変化すべき時に)変化することができませんでした。普通とは一味違う、ヴァラエティに富んだ旅を提案することがトレンドになってきているのに、あくまで大衆向けの旅行商品のロジックに安住し続けてしまったのです」と厳しい評価。さらに、インターネットの活用等でも同業他社に後れを取ったと述べ、「NF社の年来の顧客は高齢化が進み、その分多少資産も増えて、同社が販売する安価な旅行商品からは離れていきました。一方で若年層はネットで情報を得るようになっています」とも説明している。
同じTUIグループ内でも、別のマルマラ社などは、地中海方面にとりわけ力を入れた旅行企画で堅実な実績を挙げているという。時代の変遷に従って社運も変わり、入れ替わりが進むのはある程度は避けられないのかもしれない。