建築士の手になる住宅を一般公開

自分の家を持ちたいと思った時に、建築士に依頼するという人は日本でもさほど多くないのではないかと思う。プロフェッショナルな知識と技術を活かしてもらえる分、経費も高くついてしまうのではという心配がつきまといがちだ。こうした懸念はフランスの場合でもほぼ同様のようだが、建築士の側からすればそれは誤解で、もっと自分たちを活用してほしいということらしい。6月17日付の『ジュルナル・デュ・ディマンシュ』紙パリ版は、彼らの広報活動の一環として展開されている最新のイベントを紹介する(Des maisons qui font rêver. Journal du Dimanche Paris, 2012.6.17, p.1.)。
6月15日からの金土日、そしてその翌週末に展開されるイベント、「『住むための建築』の日」は、フランス全土で建築士が造った住宅を開放し、見学してもらおうという内容で、2000年から毎年実施されている。雑誌『住むための建築』が主催し、文化省や全国建築士会が協賛するこの行事に、今年は400以上の住宅(アパルトマンやロフトなども含む)が出展(?)しており、そのうち119軒がイル−ドゥ−フランス地域圏にある。最小6名以上のグループで事前予約をして、建築士自身が案内する30分ないし45分程度のガイドツアーに参加するという形での見学になり、主催者は総計で2万2,000人ほどの参加を予測している。
上記雑誌の発行人で本件企画の代表も務めるエリック・ジュストマン氏は、「このイベントの目的は、広く一般の方々に建築士が造った家を訪ねていただき、建築の意図や特徴、さらに住んでいる人の日々の生活などについて話を聞く機会を提供することです」と説明する。そして背景には当然、建築士に関し人々が感じている敷居の高さを取り払ってもらおうという期待が込められている。ジュストマン氏は「(建築士は)知識の面でも金銭面でも、気軽に付き合っていただける人々です。もっとも、このところテレビ番組のおかげでイメージも随分良くなってきましたが」と述べて、家のことについてであれば、なんでも彼らに相談を持ちかけてほしいと希望している(「テレビ効果で建築士のイメージが柔らかくなった」というのは日本も同じかもしれない)。
ジュストマン氏がこの際誤解を取り払いたいと願うポイントは特に費用関係。今回の見学対象になっている400軒に関して言えば、その費用は3万ユーロから30万ユーロまでの範囲に収まっている。「1平方メートル当たり1,000ユーロなどという物件もありますよ。建築士は高級な建物ばかり造るわけではないのです。(通常の施工業者に依頼する場合と比べて)特に追加的な経費がかからない場合もあります。ちなみに、家主が支払う総額のうち建築士がもらうのは8%ないし15%程度で、施工者が30%ほどを確保します」という説明で、建築士すなわち贅沢という感覚をなんとか払拭したいらしい。
ちなみに、最近の建築士への依頼案件には、時流を反映してとりわけエコ志向のものが目立っているという。暖房を節約するための断熱性能確保、耐久性に優れた建築資材の採用、ソーラーパネルの設置などを求める家主が増えており、そうしたエコ志向に応えつつ、いかにして総体的に利便性が高く、住みやすい家を造るかが課題になっている。細かいニーズに対応できてこその建築士であろうから、この分野での彼らに対する期待は、今後もますます高まってくるだろう。消費者の立場からすれば、まずは週末にちょっと「御宅訪問」、そこで将来自分の家を持ちたいと思っている人々がいろいろな想いを膨らませていければよいのではないかと思う。