スウォッチ社の世代交代、経営への影響いかん

低価格品から高級品まで、多彩な時計のブランドを手中に収め、同業界の企業グループの世界売上げランキングでトップの座を確保しているスイスのスウォッチ・グループについては、すでに5月12日の当ブログでも若干取り上げた。このグループが世界の時計産業に与える影響は当然のことながら絶大なわけだが、最近は経営執行部に、多少の入れ替え、世代交替が見られるという。6月21日付の『ル・タン』紙はこのあたりの現状について動向を報告している(Nick Hayek reprend par interim les rênes de la marquee Swatch. Le Temps, 2012.6.21, p.15.)。
同グループ経営者の異動で、現在最も大きな話題となっているのがアルレット−エルザ・エムフ氏の勇退。20年来スウォッチに関わり、特にその後半10年強は高位経営陣の一員を常になしていた彼女の引退は、企業集団全体の趨勢を大きく変貌させる可能性があると内外から受け止められている。ジャーナリズム論等を修めたエムフ氏は最初、1992年に広報課長としてスウォッチ・グループに入り、その業績が認められて1999年には執行役会のメンバーとなった。またそれ以前、1997年にはカルヴァン・クラインとの合弁会社、CKウオッチの社長に就任しており、その後もジュエリー販売のドレス・ユア・ボディ(DYB)、高級時計ブランドであるレオン・アトなど各部門のトップ、日本及び韓国の現地法人社長を歴任、兼任し、さらに2009年からはブランドとしてのスウォッチの部門長にも就任していた。
エムフ氏の他にも、今年3月末にはグループの一角を成す有名時計ブランド、ラドーのトップを務めてきたロラン・ストルール氏が引退している。これらの動きは事情通(例えば、金融仲介業者ケプラー社など)によれば、創業者であるニコラ・ハイエク氏の死去(2010年6月)の影響によるところが大きいと目されている。ハイエク一族が経営に関与する体制は変化することなく続いているのだが、ニコラの息子であるニック・ハイエク氏が社長になったことで、執行部全体に若返りの気運が生じているようだ。ちなみにニックはエムフ氏が抜けた後で、一時的にスウォッチ・ブランドのトップも兼ねることになっている。
こうしたニュース自体は、一つの大企業の人事と、意外に根強い同族経営ぶりを紹介するというだけの内容のようにも思えるが、こうした人の入れ替わりが、経営方針や各ブランドの動向に今後変化をもたらす可能性もないわけではない。スイスを代表する企業といっても過言ではないスウォッチが、どういった経営体制で、どんな未来を切り開いていくのか、大方の注目も集まるというものだろう。