ラ・ヴィレットに建設の商業複合施設は成功するか

パリ19区のラ・ヴィレットと言えば、広大な公園の中に科学産業博物館、音楽博物館、オムニマックスのドームシアター(ジェオード)、ポピュラー音楽向けのコンサート施設(ゼニット)などを備えた、市内を代表する再開発地域の一つ。既に大方の知名度も高く(『地球の歩き方 パリ&近郊の町 ’11-‘12』でも、「未来志向の総合エリア」、「ゆっくり遠足気分で出かけたい場所」と案内されている)、集客力も備えているが、最近になって、ここに大きなショッピングセンターとアミューズメントランドを兼ねた施設を新たに作ろうという動きが出ているという。6月17日付の『ジュルナル・デュ・ディマンシュ』紙パリ版では、こうした動きの現況とその評価について詳しく紹介している(Jeux et shopping sous un meme toit. Journal du Dimanche Paris, 2012.6.17, p.2.)。
現在動き始めているのは、不動産デベロッパーであるアプシス社が立ち上げた「ヴィルップ」という総額1億1,000万ユーロの巨大プロジェクトで、6月13日から2日間開催された商業不動産フェアで関係者に概要がお披露目された。アプシス社はパリ・ボーグルネル地区(15区のセーヌ左岸一帯)の再開発(現在進行中)などの実績も有しており、本企画についても科学産業博物館を管理運営する行政法人が2006年に実施したコンペで勝ち残った。エファージュ社(建築企業)の手で今秋にも実際の工事が着手され、2014年の初めには一般オープンする予定と言われる。
博物館に隣接する土地にできる新施設の特徴は、いわゆるアトラクションとショッピングの両方の要素が混ざり合ったものであること。前者の目玉は、中心部の吹き抜けスペースにできる米イフリー社開発のインドア・スカイダイビングエリアで、時速240キロの風を吹き上げさせることで擬似フライトを体験することができる。また同じ場所には大水槽が置かれ、大小の魚たちが優雅に泳ぐ姿が見られるようになり、さらに映画興行会社のパテが運営する16スクリーンの映画館(合計3,000人収容)も施設内に作られる予定といわれる。
一方、1万平方メートル規模のショッピングスペースの核店舗には、子ども服を中心に世界で1,000店舗以上を展開するIDグループの「IDキッズ」が入り、洋服だけでなく家具やおもちゃ類なども販売することが想定されている。他の25テナントは本や文具、インテリア、コスメやドラッグストアなど、生活用品やちょっとしたプレゼントが買えるようなラインナップで構成される。さらに2,000平方メートルを占める飲食店街では、スターバックスやサブウェイなどの出店が既に決まっているらしい。公園などに遊びに来る子どもたちを特にターゲットにした構成と言えそうだ。
公園の周辺住民(20分以内で来られる範囲に居住する市民)は140万人、科学産業博物館の来館者は年間270万人、また公園自体の来場者数(音楽博物館、ジェオード、ゼニット等を含む)は年間約800万人にのぼっており、デベロッパーはこれらの人々を新施設の主な顧客層と考えている。さらにラ・ヴィレット内部及び周辺では、ここしばらく開発案件が目白押し。2014年に音楽博物館隣接のパリ・フィルハーモニーホールが完成し、さらに公園周辺にパリ外周トラムが延伸してきたり(今年末予定)、パリ郊外鉄道(RER)E路線の新駅ができたり(2015年)といった動きが続いて、公園の来場者数は1,400万人まで膨らむのではないかとの観測もある。
こうした動きも踏まえて、アプシス社のモーリス・バンセイ会長はこのプロジェクトに自信満々。年間850万人の集客力を持つのではないかと意気込むが、他方で懐疑的な見方がないわけでもない。19区の環境問題担当助役、ベルナール・ジョミエ氏は、「このプロジェクトに関しては、収益性に疑念を抱いています。過度にフォーマット化されていて、ちょっとアナクロな、21世紀というより80年代風といった印象を受けてしまうのです。それから、文化的空間に商業ベースの施設を入れていくことに関し、私は方針として批判するものではありませんが、その場合は均衡を重んじるべきだ、周りの中小店舗に陽が当たらなくなるようではいけないとは考えます」と述べており、バンセイ氏が「革新的」で「全く新しい」コンセプトに基づく施設と考えるのとは対極を成している。いずれにしても将来の帰趨は「できてみなければわからない」とは思うが、例えばハイパーマーケットという業態が曲がり角に来ていると見られる(3月24日付当ブログ参照)など、商業施設をめぐる揺れ動きが激しい昨今、成功確実な形態などはあり得ないのではないかとも感じる。巨額投資で実現される折角のプロジェクトが無残な姿をさらすことのないよう祈りたい。