アマチュア1日シェフが腕をふるうレストラン

食通の街、グルメ・グルマンの街として、例えば東京などはパリに決してひけをとらないと感じる(特に料理のジャンルの多様性が売り)が、今回見つけた話題はいかにもパリらしく、しかもこの大都市が食に対して常に注いでいる情熱を改めて見せつけられた思いもする。7月2日付のフリーペーパー『ヴァン・ミニュート』紙パリ版では、一般人が日替わりでコックに挑戦し、その料理を不特定多数の客が味わうという、画期的コンセプトに基づくレストランを紹介している(Toqué comme un chef pour un repas. 20 Minutes Paris, 2012.7.2, p.3.)。
バスティーユ広場とパリ・リヨン駅のちょうど中間辺りに昨年オープンしたレストランには、多少意訳になるが「毎日替わる料理長」という店名が付けられている。文字通り、1日シェフを志願する応募者(プロとアマチュアとを問わないが、ほとんどがアマ)にその機会を提供すると共に、普通のレストランとしてランチ・ディナー営業を毎日(土日含む)続けているのだ。内容もそれなりに本格的で、前菜・メイン・デザートのセットが必ず30ユーロで供されている(昼夜共通。ビストロの価格水準という感じか)。さらに専門のソムリエが日々変化するメニューに合ったワインをチョイスし、客の好みに応じてサーブしてくれる。
取材が入った日に料理長を担当していたのは、ソフィーという料理好きの女性。店のスタッフと事前に打ち合わせを行い、彼女の「生姜やコリアンダーを活かした(ちょっとエスニックテイストな)料理にしたい」という希望を受けてこの日のコースが決められている。30ユーロの定額制という制約も考慮して店側は素人シェフに実現性のある提案を行い、また決定した料理に必要な食材を買い揃える。さらにソフィーが料理を作る間、ドゥニとポーリーヌという2人のスタッフが、技術面の問題等を完全バックアップする体制も整っている。
ソフィーの仕事は朝からスタート。ランチに向けた下ごしらえを始めた彼女はリラックスした雰囲気で作業している。それでも2時間後には少し手応えを感じ始めたようで、「大勢にサーブするための料理づくりは大変です」との本音も。幸い店を訪ねてきた客が「完璧な出来です。ちょっと舌を驚かせるような要素もありますね」と彼女の料理を褒めてくれ、シェフが感激するといったシーンもあった。午後3時頃に一休みしてから、今度はディナーに向けた準備。夕方には彼女の友達も大勢訪ねてきて、仕事を終えたソフィーと一緒に楽しくディナーを味わうという趣向も用意されている。
当レストランのコンセプトはそもそも応募者がいないと成立しないわけだが、今のところそのあたりは好調のようで、志願シェフを毎日とはいかないまでも連日のように迎え、作り手と客が共に楽しむ空間が繰り広げられている。なんでもわざわざ1日コックを務めるために、オーストラリアから参加した人もいたのだそうだ。果たしてどんな料理が出て来るのか、ちょっとおっかなびっくりという面もあるけれど、パリ滞在の際には一度ぐらい足を運んでみると楽しいかもしれない。