パリ・オルリー空港周辺をぶらり散歩

飛行機の爆音は日々聞かされれば当然うるさい以外の何物でもないが、たまに離陸の雄姿を目の当たりにするのはとても興味をそそられることでもある。羽田空港近くの公園は、休日など旅客機を眺める親子で賑わうとも聞く。そうなるともちろんパリの空港周辺でも、同じようなことが考えられないはずはない。8月24日付の『ル・パリジャン』紙パリ市内版では、同市南郊のオルリー空港の迫力を間近に楽しめる散策ルートを紹介している(Balade le long des pistes d’Orly. Le Parisien – Édition de Paris, 2012.8.24, p.3.)
シャルル・ド・ゴール空港(ロワシー空港)に次ぐパリ第2の国際空港として知られるオルリー空港。現在は日本からの便は全てロワシーに向かうので少し印象が薄くなっている感もあるが、今でもアフリカ、中近東、さらにヨーロッパ域内の路線が発着する活気あふれる交通拠点だ。ここを主要ターゲットとした散歩コースの出発点は、首都の中心街から郊外鉄道のC線で約25分のオルリー・ヴィル駅に設定されている。現地にはぶらぶら歩きを楽しむ人用の案内図など用意されていないので、事前に地図をよく確認しておいた方がよいらしい。途中でジョルジュ−メリエ公園に立ち寄り、木陰で喉を潤したりしながらおおむね西方向に歩いて行くと、やがて巨大な滑走路が見えて来る。
徒歩30分でオルリー空港の敷地に一番近い地点まで到着すると、やはりそれまでの想像をはるかに超えた光景が広がり、音が伝わる。うっかりすると強風にあおられて帽子が飛ばされそうになることすらあるらしい。飛び立つ飛行機、あるいは着陸する飛行機を眺めながら、遠い異国の風物に想いを馳せてみるのもよいだろう。あまりの大迫力に夢中になり、子ども連れだと先に歩みを進めるのがひどく難しくなるかもしれない。
空港から離れて南東に進路を取り、家々の庭に花が溢れるヴィルヌーヴ−ル−ロワの町を通り過ぎるとあたりには郊外らしい風景が現れる。すると突然、小さな畑を耕している人々に遭遇。4.39ヘクタールの土地を187に分割した家庭菜園用地が作られており、栽培に興味を持つ人たちがそれぞれ野菜などを植えているのだ。そこで出会ったレジーヌは66歳、すでに退職を迎えた近所の住人で、丹精こらして育てた香草やトマトなどをちょうど収獲している最中だった。このあたりは日本の都市近郊でもよく見られる様子といったところか。
散策コースの後半の佳境は、セーヌ川沿いのぶらぶら歩きとなる。河岸を約2、3キロ、夏日に照らされながら歩く。眺めが開けたところでまた少し休憩を取るのもよいだろう。河を行き交う船の音が聞こえ、かもめの鳴き声もする。ヴィルヌーヴ−サン−ジョルジュ橋で川を渡れば終着地、郊外鉄道D線の駅はもうすぐだ。隣りの駅のそばにある、セーヌに浮かんだ船上酒場で疲れを癒し、ついでに食事を取るのも一興だろう。
今回辿ったルートの周辺には、パリ空港公団(ADP)が運営する環境・持続的開発センターや、グラン・ゴデ・スポーツ公園などのスポットも点在している。いつもの街中歩きではなく、8.5キロ、所要3時間といわれるこうした郊外の道のりをたまに踏みしめてみるのも、明るい(夏はやや厳しいかもしれないが)日射しを浴び新鮮な空気に触れて、また新たなフランスが見えてくるかもしれない。