「裸足族」パリの街をゆく

自宅で過ごすときは余計な拘束を取り外したくて靴下を脱ぎ、少しぐらい寒くても快適(スリッパなどはまず履かない)なのだが、もちろん戸外は別。砂地(浜辺を除く)や土の上でも、かねて衛生問題が指摘された記憶もあり、自分としては素足でいることは想像しにくい。ところがパリなどでは、はだしで外を歩いたり走ったりするのが、ちょっとした先端トレンドになっているのだという。8月28日付の『ル・パリジャン』紙は、記者の体験談も交えつつその活動の実態に迫っている(En ville avec les ≪va-nu-pieds≫. Le Parisien, 2012.8.28, p.26.)
俗に「裸足族」とも名付けられ始めているこれらの人々は、アメリカやオーストラリアで口火を切り、フランスでも確実に「増殖」していて、彼らの動向を報告するウェブサイトやブログが数々お目見えしている。特に「はだしラン」の愛好者は、パリ市内や郊外を一定距離走り抜く(スピード勝負ではなく、あくまで楽しみとして)というイベントを頻繁に実施しており、それなりの参加者もあるらしい。
いきなり走るのも…ということで、『ル・パリジャン』紙の記者が出向いたのはパリ中心街、ルーブル美術館のそばを東西に走るリヴォリ通り。ここで待ち合わせたオリヴィエ・ベルトラン氏と共に、裸足のウォーキングにトライすることになった。48歳、中国武術の指導を仕事にしているというベルトラン氏は、「いやあ、絶対快適ですよ、約束します」とまだおっかなびっくりの記者を元気づけ、大都会の真ん中での素足歩きが始まる。
ウォーキングを開始してまず気になるのは、路面が汚くはないかということ。特にパリといえば犬のフンで有名なだけに、悲惨な目に遭わないかとすごく気になる。けれどベルトラン氏に言わせれば、「そんなに心配しなくていいです。裸足で歩くと、周りのものに対してとても注意深くなりますし」とのこと。カルーセル・ドゥ・ルーブルのアーケードでは警備員に注意されるというハプニングにも見舞われたが、通りすがりの人々の目は総じて驚きに満ちつつも好意的な(変なイメージは持たれていないという)感じだ。記者もだんだん、足が開放されているという感覚を心地よく思うようになっていった。途中ですれ違った41歳のジルとシルヴィーは、裸足族にかなりの共感を抱くといった風情だったが、それでも最終的な反応は「自分で実行しようとは思いませんね」とのこと。一方、ルーブル宮殿の南側にある橋、ポン・デ・ザールを渡っているときに出会ったシルヴァンは、「自宅の庭でならいいんですけど」と感想を残して立ち去っていった。
靴や靴下を脱いで戸外に出ることについて、その賛同者は、足の筋肉が鍛えられからだのバランスが安定する、身体全般に調和と平衡が促進されるなどのメリットを力説する。ただ注意すべき点も少なくはない。まず歩き方、走り方としては、できるだけ足を広げ、筋肉がつくようにするのが肝要とのこと。家に帰ったらすぐに黒ずんだ足を除菌効果のある液体せっけんなどで念入りに洗わなければならない。はだしで走った結果たこができるのは全然問題ない(皮膚が強くなるという意味ではかえって良い)が、足裏に擦り傷などがある場合には感染症の危険があるので外を歩くのは避けるべきとされる。フランス足病学連盟のセルジュ・コアンブラ会長は、「裸足で歩く、走ること」の効用を強調しつつ、雑菌の体内侵入が深刻な影響を及ぼすおそれが強い糖尿病や動脈炎の患者は、決してこうした振る舞いをしてはならないと警告している。
アメリカではアンジェリーナ・ジョリージュリア・ロバーツが熱心に実践し(ジュリアは映画「プリティ・ウーマン」でも裸足のシーンをさかんに披露した由)、フランスでも人気歌手ヤニック・ノアや女性シンガーソングライターであるザジーが舞台で展開している裸足活動。日本はもちろん、フランスでも大流行する雰囲気ではなさそうだが、一つの現代版「自然に還れ」運動だと思えばその意義も理解可能かもしれない。