ノルウェン・ルロア、デビュー10年の境地

フランスの代表的民放TF1で放送されるリアリティ型オーディション番組「スターアカデミー」を、かつて何度か見る機会があった。スターを目指す若い男女が合宿所に集められ、その日常生活が番組として毎日流される。週1回の発表ステージで合宿での結果を披露し、視聴者の投票によって最も「イケてない」候補者が脱落、そして何週間か経って最後まで残ったチャンピオンには歌手デビューが約束されるという仕組みになっていた。コンセプトに覗き見趣味という悪ノリの要素も感じられるが、実はこの番組の出身者には一過性に終わらず長く活躍している「スター」も少なくない。第2回チャンピオン(2002年)になった女性、ノルウェン・ルロアもその一人。12月1日付の『ル・フィガロ』紙は、発売されたばかりの彼女の5枚目のオリジナルアルバム「おお、水の少女たちよ」について詳しく紹介している(Nolwenn Leroy se jette à l’eau. Le Figaro, 2012.12.1, p.38.)。
デビュー後一時的には路線に迷いを見せ、セールスが急激に落ち込んだ時期もあったノルウェンは、2010年の作品「ブルターニュ女性」が一躍ミリオンセラーとなり、今ではトップスターの仲間入りとの感もある。『ル・フィガロ』紙の記者は、彼女の新作が、パトリック・ブリュエル、ジョニー・アリディミレーヌ・ファルメールといったフレンチポップスの大御所たちと同じぐらいの期待と反響を巻き起こしているとまで述べている。そんなニューアルバム、その方向性については事前にいろいろな下馬評があったようだが、結局は前作の流れを継承しつつ、彼女が持っている新たな要素を付け加えたというような内容になっているらしい。
大人気となった前作は、ブルターニュ地方に伝わる唄やメロディーを大幅に取り入れたいわばカバー集となっていて、そうした企画の意図そのものが、多くの聴衆を引きつけたのだとも言われる。もちろん古謡の再生という方法を「御都合主義的」と非難する向きもあったようだし、本記事自身も、テレビ番組の企画で作られた歌手という「原罪」を、トラッドなレパートリーの持つ正統性をもって消し去ろうとしたのが「ブルターニュ女性」というアルバムだったのではないか、と穿った論評を加えている。もっともこうした意見に対して、ノルウェン自身は「私自身が持っていたノスタルジーの感情が、何万、何十万の人のノスタルジーに出会った(のがこのヒットの本質)。結局そういうことです」と、取り合う姿勢を見せない。
一方今回の作品「おお、水の少女たちよ」は全曲がオリジナルとなり、ノルウェンも作詞作曲を担当している。ブルターニュ的な雰囲気は継続しているが、今回は特に海、そして水にテーマを据えた。セイレーンの伝説、そしてケルト神話などのモチーフを生かしながら、フレンチポップスに新たな風を吹き込もうという趣旨は、決して「ブルターニュ女性」第2弾というわけではないにしても、彼女が進もうとしている道筋の定着をうかがわせるものだ。「流行りの中に身を置くのでなく、ただ(歌いたいという)自分の欲求の果てまで進んでみたいのです」。そして今作については、本人も「何も変わってはいないけれど、ただ皆さんが以前よりもっと熱心に自分の歌を聞いてくださるということはありますね」と認めるように、これまでとは違う圧倒的な注目の下でのリリースとなっている。ヒット街道を走る今となっても変わらずマネージャーなしで仕事をこなすノルウェン。マイペースを崩さない彼女の今後のキャリアが期待される。