「紛争領域」続く商店の夜間・日曜営業

労働時間、とりわけ夜間や日曜日に働くことについて、フランスでは厳しい規制が課せられている。商業についても同様で、このため店は通常遅くない時刻に閉まってしまうし、日曜日についてはカトリック的伝統も手伝って一部例外のところを除けば閉店だ。サルコジ政権下で若干の規制緩和が実施されたものの、考え方の大枠は変わっておらず、また労働の長時間化、不規則化につながりかねない制度変更については労働者側からの反発も少なくない。一方で消費を伸ばしたいという経営者らの思惑がますます明確になってくる中で、現時点での動きはどうか。12月7日付『ル・フィガロ』紙は、化粧品大規模販売チェーン「セフォラ」を舞台に展開されている労使紛争を中心に、夜間・日曜営業をめぐる最近の動向を報じている(Travail de nuit: Sephora remporte une victoire. Le Figaro, 2012.12.7, p.25.)。
12月6日にパリ大審裁判所で下された決定は、この問題に対する一つのメルクマールになり得るものだった。同裁判所は、現在深夜0時まで(金曜日・土曜日は午前1時まで)となっているセフォラ・シャンゼリゼ店の営業時間をそのまま認め、「午後9時閉店にすべき」としていたパリ商業労働組合連携協議会の主張を退けたのである。パリの目抜き通りに居を構える店舗や事務所から構成される「シャンゼリゼ委員会」のジャン−ノエル・ラインハルト委員長は、「この街にショッピングで来る人々、それに旅行客は、15年前の開店以来夜間営業を続けてきたセフォラが夜になると閉まってしまうという事態を受け入れにくいのではと思っていました」と、今回の決定を歓迎。一方で労組側は決定を不服として控訴の構えを見せている。
今回裁判所の判断の主な拠り所になったのは、原則禁止とすべき深夜労働の時間帯を午後9時から午前6時までと法制化したのが2001年であるのに対し、セフォラが現行の営業時間を始めたのは1996年であり、法律施行前だったということのようだ。そして実際この店では、午後9時以降の売上高が全体の20%にも上っているだけに、店舗責任者をはじめ経営陣は現時点ではとりあえず一安心といったところではないか。
もっともこの種の問題は一店舗の話ではなく、フランス各地の商業施設について同様の労使紛争や司法上の係争が展開されている。パリ商業労働組合連携協議会で労働総同盟(CGT)を代表するメンバー、カール・ガジ氏は、知名度の高いチェーン店などを係争に巻き込むことで、法制度の(労働者に有利になるような)改善につなげたいと、その「闘争方針」を語っている。今回こそ敗訴だったが、これまでにはデパートであるギャルリー・ラファイエット、スーパーのフランプリ等を相手に勝利を収めた実績もあり、今後も多くの業者が槍玉に上がりそうな様相だ。
また、閉店時間の夜間延長以上に紛争の種になっているのが、各種の店舗について日曜営業を認めるか否かの判断。原則としてフランスの商店は、一部の大都市域を除いて日曜日に店を開けてよいのが年5回までに限定されており、しかも開店には店が所在する市町村の長の承認を必要とする(ただし業種による例外多数)。2009年8月の法改正で、100万人以上の規模を有する都市圏を中心に、市議会と県知事の承認を前提として、あらゆる種類の店舗で日曜営業が可能になった。罰金を払って日曜開店を強行する行為を減らす(つまりある意味での現状追随)のが一つの目的と見られているが、それでもこうした措置の対象とならない都市や地域はまだ多い。ナント市では、ジャン−マルク・エロー市長(首相との兼任)が強硬に許可を拒んでいるため、クリスマス直前の日曜日、12月23日に店が開けないという状況になっている。
労組側がさらに問題にしているのが、改正後もこの件に関する法規制にあいまいな点が多いこと。例えば、家具店や園芸ショップは日曜営業年5回制の例外とされ、通年での営業が可能だが、DIY用品店はその限りでないといった、恣意的な適用もできてしまうような規制が実際に運用されている。組合では個別の店舗や業者に対する訴訟に加え、今後は制度それ自体についても問題を提起する構えといわれており、この件が落ち着く見通しは立っていないようだ。