街を生きる人々の声集めた本を出版

市井の人々がその生活について語ることばをそのまま集め、多様性と共に一つのイメージを浮かび上がらせようという、ノンフィクションのある種のアプローチは、魅力的に見えるけれど実はそれほど容易に取り組めるものではないだろう。下手をすればただ脈絡のないおしゃべりの羅列になり、読み手にとって面白くはならないからだ。最近、スイスのローザンヌで、そんなアプローチから著作をまとめたライターがいるのだが、さてその出来はどうか。12月19日付の地元『ヴァンキャトルール』紙は、著者へのインタビューを軸にこの本を紹介している(Soixante-huit Lausannois racontent leur vie, leur ville. 24 heures, 2012.12.19, p.21.)。
今回『中央通り−欧州都市ローザンヌポートレート』と題する図書を刊行したのは、イギリス人の作家兼ジャーナリスト、ローラ・スピニー氏(41歳)。ローザンヌ大学附属ヴォー州医療センター(CHUV)の医師となった夫に連れ添って、2009年にこの街へやって来た。その後しばらくして、『仕事!』『よい戦争』などで知られるスタッズ・ターケル氏が使ったオーラル・ヒストリーの手法をこの街で採用し、そこに生き、あるいはそこで働く人々の生の声を引きだすことにより、都市の姿、その暮らしぶりを捉える試みに着手する。1年間の取材を経て、最終的に取り上げられた68人の中には、現代美術のギャラリーを営むアリス・ポーリ氏や、包装用品製造機械の大企業、ボブスト・グループの御曹司といった、ごくわずかの著名人・名士を除けば、タンゴ・ダンサー、銀行の事務員、煙突掃除夫、クラブ経営者、それに非正規移民といった「名もなき」多彩な人たちが集まった。
「(誰に話しかけるかについては)私は自分の直感、ぱっと見た感じから来るひらめきを頼りにしました。インタビューを断られたことは多かったですし、だから自分の技術も磨いていかなければなりませんでした。ただ、こうして生まれた出会いの中から、数多くの魅力的な話を聞くことができたことは未だに信じられないほどです」と語るスピニー氏。各人が話す多様なストーリーから都市の様子を浮き彫りにするという目標の達成具合にもある程度自信をもっているようで、「ローザンヌは中規模な町ですし、それでいて(ある種の国際都市でもあることから)いろいろな人が混ざり合って住んでいるという点において(欧州都市を描く上での)代表的な例になり得ます。いわば人々が行き交う交差点のような感じでしょうか。言ってみれば、あらゆる人々がそこにはいるのです」と著書出版に漕ぎ着けた現時点での率直な感想を漏らしている。
なにより著者自身が楽しんで街角インタビューを続け、それを拠り所に都市の「ポートレート」を描き切ったという雰囲気が好もしく、そのあたりを『ヴァンキャトルール』紙としても評価しているのだろう。現代のフランス語圏スイスの断層を知るという目的なら十分興味深く読める、そんな本として仕上がっているように記事からは見受けられた。