人材の国外流出はやはり問題

昔と比べて、よりよい生活条件を求め人々が大規模に移動するようになった現代国際社会。その代表例は移民だろうが、一方で世界を飛び回るビジネスマンや企業家たちのなかでも、生活の本拠地ひいては国籍までも他国に移してしまおうという動きは少なくない。2月7日付の経済紙『レゼコー』は、フランスにとっても人材の国際的流出が深刻な事態になり始めていると、問題の所在を報じている。
「上級管理職、能力に秀でた技術者、企業家、ハイレベルの学生など、優秀な人々が国外に出ていく傾向は確かにあります」と説明するのは、公共機関で人事部長を務めた経験があり、現在はパリ第4大学(ソルボンヌ)附属コミュニケーション科学高等研究学校(セルサ)客員教授のジャン−マルク・ル・ガル氏。ただこれにより、「世界経済が国際化したから、フランスでは頭脳流出が起こって困る」といった因果関係を設定してしまうとピントが外れてしまう。同じくパリにあるエスルスカ・ビジネススクール講師(多文化経営専攻)のバンジャマン・ペルティエ氏は、「とにかく、『人の流出』と『人の移動』は区別しないといけません。グローバリゼーションは新しい(各種の)相互作用を引き起こすものであり、人が移動していくのはまさに(人材をめぐる)市場が開かれていることの結果なのです」と、事態を落ち着いて見るよう促している。広い視野からすれば、一見して優秀な頭脳がフランスから出ていくような状態であっても、それが結局は国際政治経済の中で、フランスの利益にもなってくる、それがグローバリゼーションの効果なのだ、とでもまとめて考えることができるだろうか。
ただ一方に「良い流出」があるとして、やはり「悪い流出」の存在も否定できない。ヨーロッパ全般に経済が低迷している上、フランスではオランド政権下で富裕層に対するさらなる増税も企図される(過激な所得増税憲法院によって却下されたが)といった状況において、半ばはフロンティアを求めて、半ばは不利かつ展望の薄い環境から脱出するため、この国を去る人たちがいるのは事実であろう。ある種のリッチ・ガイにとって、ブラジル、アジア、中東諸国などに比べ、フランスも含めたヨーロッパは、全体としてはっきりと魅力を失っているのだ。
こうした人々にそれでも国外脱出を思いとどまらせるためには、少なくとも各企業が自らの魅力を高め、キャリアの多様化など経営上の刷新に努める必要があり、また国も「フランス」というブランドを維持向上するようますますの努力をすべきだ、とル・ガル氏は強く主張する。ペルティエ氏も「真の問題は若い世代にとって、フランス流の古びたマネジメントスタイルがその企業の評価を下げてしまっていることです」と、似たような意見を持っているようだ。1990年以降の約20年間に、外国人学生が約16万人から約29万人へと急増しているといった有利な状況もある中で、どのようにフランスが優れた人材を引きとめることができるかが切実に問われているのだとは言えるのだろう。ただ、一方で移民に対する厳しい情勢を見るにつけ、「人の世界的移動」を巡る言説はかくもパラドクスに満ちているものかと、感じ入るところもあるのだけれど。